研究課題
視床下部の視交叉上核(SCN)の神経ネットワークは、概日(サーカディアン)リズムを制御する中枢時計として機能している。本研究では遺伝子改変マウスや神経生理学の最新の技術を用いて、中枢時計神経ネットワークの動作原理理解を目指す。現代社会では時差や夜間勤務、生活習慣の乱れにより、概日リズム変調は誰にでも起こりうる問題である。睡眠障害のみならず、様々な疾患・健康障害のリスクを増大する。したがって、概日リズム発振のメカニズムを理解し、概日リズム変調の効果的な予防方法・対処方法を見つけることは、大変重要である。本年度は、in vivoゲノム編集によりSCN AVPニューロン特異的にGABAA受容体をノックアウトしたマウスの解析を始め、概日行動リズムに異常が観察された。また、ファイバーフォトメトリーと蛍光Ca2+センサーjGCaMP7sを用い、生体内でのSCN AVPニューロンにおける[Ca2+]iリズムを正常及びAVPニューロン特異的Vgat欠損マウスで測定することに成功した。これまでの研究成果と合わせると、AVPニューロンから放出されるGABAはSCNの分子時計が何時に行動を引き起こすかを制御することが明らかになり、論文発表した(Maejima et al, PNAS 2021)。AVPニューロン特異的CK1d欠損マウスはAVPニューロンの細胞時計周期の延長により概日行動周期も長くなるが、当該マウスのSCNネットワークの状態を生体内で調べるため、ファイバーフォトメトリーを用いてAVPニューロン、VIPニューロンの[Ca2+]iリズムを別々に調べる実験系を構築し、計測を開始した。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ研究計画の通りに、研究が進んでいる。研究成果をまとめて論文発表も行った。
GABAA受容体ベータサブユニットのどのサブタイプがSCNによる概日リズム発振に重要なのか、明らかにする。また、AVPニューロン特異的GABAA受容体欠損マウスのSCNスライスを用いた電気生理学的解析を行う。同様の方法でVIPニューロン特異的GABAA受容体欠損マウスを作成し解析する。ファイバーフォトメト リーを用い、AVPニューロン特異的Vgat欠損マウス、同CK1d欠損マウスのAVPニューロン、VIPニューロン、その他のニューロンの[Ca2+]iリズム、時計遺伝子発現リズムなどを生体内で計測し、ネットワークの異常と概日行動の異常との関係性を詳細に解析する。また、SCN神経活動のin vivo長期記録の実験系を構築し、前述の概日リズム異常マウスに適用する。光遺伝学・化学遺伝学・ファイバーフォトメトリーにより、新規に見出した覚醒促進ニューロンとSCNとの関係を検討し、中枢時計による睡眠調節の神経メカニズムの一端を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Proc Natl Acad Sci U S A
巻: 118 ページ: e2010168118
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https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/88959