研究課題
アミノ酸は、タンパク質・脂質・核酸などの生体高分子の合成反応基質であると同時に、リン酸化シグナル経路を通じて多様な細胞機能制御に寄与するシグナル分子としても機能する。本研究は、アミノ酸トランスポーターとアミノ酸受容体の両者を標的として、高い抗腫瘍効果を発揮する代謝制御薬の創薬基盤の確立を目的としている。研究の初年度にあたる2019年度は、細胞膜型ロイシン受容体の分子同定に向けた解析に着手した。アミノ酸認識機構が異なる細胞株由来の、細胞膜画分を用いた比較定量プロテオミクス解析については、予備的検討によって既に得ていた候補因子について、その機能的意義を遺伝子ノックダウン実験によって個別に検討しており、現時点では細胞膜型ロイシン受容体の同定には至っていないが候補因子の解析を継続している。しかし、細胞膜型ロイシン受容体特異的リガンドを用いたリン酸化プロテオミクス解析においては、同受容体が制御している下流のアミノ酸シグナリング経路について、その概要を把握することが出来た。加えて、細胞膜型ロイシン受容体特異的リガンドで細胞を刺激した際に、受容体チロシンキナーゼを含む幾つかの膜タンパク質のリン酸化状態の変動が確認され、細胞膜型ロイシン受容体の有望な候補因子を見出すことができた。がん細胞においてアミノ酸のシグナルの中心を担うアミノ酸トランスポーターLAT1が制御する細胞内のアミノ酸シグナリング経路については、複数のがん細胞株を対象にして選択的阻害薬の存在下と非存在下で比較定量リン酸化プロテオミクス解析を実施し、パスウェイ解析によってその概要を把握することが出来た。
2: おおむね順調に進展している
細胞膜画分を対象にした比較定量プロテオミクス解析に着手し、現在までのところロイシン受容体の分子同定には至っていないが、候補因子の解析を継続している。予備的検討によって既に得ていた候補因子に加えて、候補因子の絞り込み方法について幾つか改善を検討している。機能評価の結果の再現性確認等に時間を要し、代替案として予定していた、光反応性プローブやケミカルバイオロジーによる分子同定は今後の検討となる。一方で、細胞膜型ロイシン受容体の特異的リガンドを用いたリン酸化プロテオミクスにおいては、受容体チロシンキナーゼを含む幾つかの膜タンパク質のリン酸化状態の変動が確認できており、当初の想定とは異なった観点から細胞膜型ロイシン受容体の有望な候補因子が取得された。がん細胞におけるアミノ酸トランスポーターの下流のシグナル経路についても、プロテオミクス解析とパスウェイ解析による全容の解明を着実に進めており、以上から研究は概ね順調に進展していると考えている。
目的とする細胞膜型ロイシン受容体の分子同定に向けて、引き続き細胞膜画分の比較定量プロテオミクス解析を実施する。特に、異なるアミノ酸認識機構を持つ細胞株をより多く集めることで多細胞株間の比較を可能にすること、あるいは同一細胞株においてアミノ酸認識機構が切り替わる培養条件を見出し、培養条件間での変動比較解析を実施することが、効率的な候補因子の絞り込みにおいて重要になるものと考えており、この点について検討を加えていく予定である。また、細胞膜型ロイシン受容体の特異的リガンドを用いたリン酸化プロテオミクスにおいて得られた有望な候補因子については、個別に遺伝子ノックダウン実験による機能評価を実施する。細胞膜型ロイシン受容体が制御している下流のアミノ酸シグナリング経路については、再現性の確認と併せて、より網羅性を高めるための条件検討を実施する。細胞膜ロイシン受容体の同定後は、これらの実験系を用いてその細胞膜ロイシン受容体が担うシグナル機構を明らかにする。アミノ酸トランスポーターLAT1が制御する細胞内のアミノ酸シグナリング経路については、今年度は阻害薬の存在下と非存在下での比較を実施して実験系を確立したが、今後は、特に注目するロイシンのみによって引き起こされるアミノ酸シグナリング経路を把握するために、実験条件の最適化をおこないその全容解明を進める。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件)
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