研究課題
モルフォゲン勾配は、組織を構成する各細胞に連続した位置情報を与え、場に適合した運命を誘導する機構であり、組織の構築・再生・維持に必須の役割を果たす。我々は最近、ゼブラフィッシュ初期胚で機能するモルフォゲン勾配であるWntシグナル勾配の研究を行う過程で、新たな生体防御システム「モルフォゲン勾配ノイズキャンセリング」を発見した。このシステムは、組織に突発的に生じたシグナル異常細胞をモルフォゲン勾配が与える位置情報を利用して感知・除去し、これによりモルフォゲン勾配の確実な形成と組織構築の正確な実行を支える。モルフォゲン勾配は初期胚だけでなく細胞ターンオーバーを行う成体組織でも機能することから、この新システムが成体組織においても機能し、恒常性維持や発がん抑制などに寄与すると期待できる。しかしながら、この現象はゼブラフィッシュ胚組織で発見したものであり、その生物種や組織種を超えた普遍性や、疾患との関連は未だ不明である。本研究では、このモルフォゲン勾配ノイズキャンセリングの生物種や組織種を超えた普遍性および生体防御における重要性を明らかにするともに、その分子基盤を解明する。本年度は、モルフォゲン勾配ノイズキャンセリングが、神経管におけるShhシグナル異常細胞の除去にも関わることを発見した。具体的には、神経管形成時に背腹軸に沿って形成されるモルフォゲン勾配であるShhシグナル活性勾配を乱すシグナル異常細胞が生じると、N-カドヘリンを介して隣接細胞に感知され、細胞死を誘導されて神経管原基から排除されることを発見した(投稿準備中)。また、細胞外pHなどの環境因子がモルフォゲン勾配ノイズキャンセリングを阻害することも発見した(投稿準備中)。さらに、米国のグループとの共同研究により、頑強なモルフォゲン勾配の形成に細胞内pHが関わることも見出した(Oginuma et al., Nature 2020)。
2: おおむね順調に進展している
モルフォゲン勾配ノイズキャンセリングが神経管でも働くことを見出し、当初予想していたこのシステムの普遍性を断片的に実証でき、またメカニズムも普遍的であることがわかりつつある。また、共同研究により未知のモルフォゲン勾配制御機構を発見した。これらの結果から、当初の計画通り順調に進展していると判断した。
今後は、神経管におけるモルフォゲン勾配ノイズキャンセリングのメカニズムをより詳細に解析し、胚でのメカニズムとの共通点と相違点を明らかにする。メカニズム解明と並行して、明らかになったメカニズム情報を基盤としてノイズキャンセリングの抑制実験を行い、その生理的・病理的意義を明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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