研究課題
RAS結合領域をもち、腫瘍抑制分子として機能することが知られているC-RASSFと呼ばれる蛋白質のうち、C末端にPDZ結合モチーフを持ち、細胞膜裏打ち構造、細胞極性と関係すると予測されるRASSF6を中心として解析を進めている。2019年度には、以下の進捗をみた。1)2018年度から着手したRASSF6ノックアウトマウスの繁殖が進み、胎児線維芽細胞(MEF)を用いて、ヒトがん細胞株を使ってこれまでに明らかにしているRASSF6の腫瘍抑制機能が、MEFにおいても再現されることの確認作業を行った。引き続き、個体レベルでRASSF6が欠損すると発がんしやすくなることを検証するための動物実験計画を申請し、準備を進めている。2)C-RASSFがもつ腫瘍抑制機能以外の機能を解明することが本研究の目的の一つである。その観点からRASSF6ノックアウトマウスを観察している。RASSF6欠損が聴覚や肝臓の脂肪代謝に異常を起こす可能性を示唆する予備知見を得ている。3)ミリスチン化修飾蛋白のチャペロンとして知られるUNC119がRASSF6に結合し、RASSF6-MDM2-p53を介する腫瘍抑制シグナルに関係することを既に明らかにしていた。新たにUNC119がRAS結合分子であることを見出した。UNC119はGTP結合型のRASに選択的に結合し、さらにRASSF6とRASの結合を増強することによりRASSF6-MDM2-p53経路を活性化し、RAS変異に対して腫瘍抑制的に機能することを明らかにした。この成果を論文にまとめて投稿し、現在はrevisionの作業に当たっている。4)線虫にはRSF-1というC-RASSFが一つだけあるが、この変異体の解析から、RSF-1が細胞極性、とくに基底側面側の極性成立に関わる可能性を支持する予備知見を得ている。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調ではあるが、RASSF6ノックアウトマウスからホモの個体を得にくいために当初、進捗が遅れた。また、、動物実験計画が厳格に審査されるため、計画書の承認を得て実行に移すまでに長期間を要し、個体レベルの実験の着手が遅れた。さらにコロナウイルス感染のため、動物実験施設の使用も制限されて、現在は中断している。
RASSF6のノックアウトマウスについては、腫瘍抑制分子としての機能、とくにRAS変異に由来する発がんにおける腫瘍抑制機能の解明を、まず進める。しかし、本研究の主眼は、むしろ腫瘍抑制機能以外の思いがけない機能を明らかにすることにあるので、引き続きRASSF6ノックアウトマウスの観察を継続し、現在、得られている予備知見の確認を行う。UNC119に関しては論文のrevision作業を完了する。哺乳動物には6個ものC-RASSFがあり、機能の一部は重複し、したがって、単一のC-RASSFのノックアウトでは表現型が顕在化しない可能性がある。これに対して線虫にはRSF-1一つしかなく解析に有利である。この観点からは、RSF-1変異体の解析も、担当できる人員を確保できるならば進めたいと考えている。
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PLoS One
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