研究課題
Anaplastic lymphoma kinase(ALK)はリガンド未定の受容体型チロシンキナーゼである。ALKはがん分野で強いインパクトを持って認知され研究も進んでいる。一方、高発現する中枢神経を含む正常組織で、ALKの機能はほとんど分かっていない。これまでに我々は、神経軸索再生阻害機構についてコンドロイチン硫酸(CS)とその受容体受容体型チロシンフォスファターゼPTPRσがその下流でオートファジー流を中断する機構を見出した(Sakamoto et al, Nature Chem Biol, 2019)。そこでPTPRσに対抗する受容体型チロシンキナーゼがあると考え、新たにALKに強い軸索再生促進能を見出した。PTPRσリガンドCSのアナロジーからALKの新たなリガンドとして硫酸化糖鎖グリコサミノグリカン[2糖繰り返しの長大な糖鎖の総称:CSやデルマタン硫酸(DS)などが含まれる]をスクリーニングして、DSが強力にALKを活性化し、しかも神経軸索再生を促進することを見出した。DSによるALK活性化機構を解明し、その生理・病態への関わりを明らかにすることを目的に研究を進めた。そして、DSにはALKに対してグリコサミノグリカンの中で最も強い結合能があり、4糖以上のDSがALKの自己リン酸化を誘導することを明らかにした。さらに、PTPRσの基質を網羅的に同定するためにBioID法を用いたところ、これまでに報告のある分子が含まれる分子集団を同定できた。この方法を今後、ALKの基質同定につなげ、PTPRσとALKの共通基質同定まで達成したい。
2: おおむね順調に進展している
DSによるALK活性化機構の解明を目指した。ALKを活性化させる生理的リガンドの要件は、ALKに対して十分な親和性とクラスタリング誘導を起こすこと、を挙げることができる。このことにアドレスした。1)DS長とALKの結合について、糖鎖の長さ(鎖長と略す)4糖以上であれば、ALKの自己リン酸化を誘導することを見出した。2)DSとALKの結合様式について、DS鎖長が長いほどクラスター化が進むことが予想されたが、DS 4、6、8、16糖とALK(N末端領域:GST融合タンパク質)の結合について検討した結果、鎖長が長いほど結合が強いことを見出した。3)自己リン酸化について、EML4-ALK融合タンパク質の活性化を考慮すると内在性のALKもクラスター化による自己リン酸化が活性化機構と予想できる。ALK全長の発現ベクターをHEK293T細胞に発現させ、DS 4、6、8、16糖を倍地中に加えてALKの自己リン酸化を示せた。4)ALKの結合ドメインについて、これまでの記述ではDSとの結合をALKのN末端領域で見るとしてきた。Schlessingerらのヘパリンの報告でこのドメインが結合することが示され、実際我々のデータもDSとこのドメインの結合でほぼ全てを説明できた。5)さらに、PTPRσの網羅的基質同定に成功しつつあり、これに用いた手法BioID法がALKの基質同定、PTPRσ-ALKの共通基質同定につながる可能性を示すことができた。以上、おおむね予定どおり研究は進んでいる。
DS-ALK axisの生理的役割の解明の生理的リガンドの要件の一つは生理的に生体に存在しALKと共存しうる発現を示し、さらに内在性のALKを十分に活性化し、表現型を表出することである。これらにアドレスするために以下の実験を行う。1)DS-ALK axisの生理的役割の解明 DSが生理的に生体に存在しALKと共存しうる発現を示し、さらに内在性のALKを十分に活性化し、表現型を表出することを示す。これらにアドレスするためにDSプロテオグリカン、DSならびに活性化ALKの局在を検討する(担当 門松)。2)ALKの下流シングルナルの解明 PTPRσの基質として、われわれはcortactinを同定したが、その他にもいくつかの基質が報告されている。ALKが軸索上でPTPRσと拮抗するならば、PTPRσの基質をリン酸する可能性がある。幸いPTPRσの基質の網羅的同定に、BioID法を用いて成功した。この方法を用いて、ALKの基質の網羅的同定を目指す(担当 坂元)。3)ALK・LTKファミリーの活性化機構全容解明 この項目3)は未達である。Leukocyte tyrosine kinase(LTK)はALKと2つで受容体型チロシンキナーゼのサブファミリーを形成する。実際にSchlessingerらはAUG-αはALKとLTKに区別なく活性化すると報告している。未だALKへの親和性、活性化能に関してDSとAUG-αの比較をした研究はない。また、DSがALKとLTKを差別化するのかも分かっていない。本課題にアプローチする(担当 門松)。
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