研究課題
Transient receptor potential (TRP)タンパク質は、多様な化学的・物理学的変化の感知により活性化開口し、Na+とCa2+等を透過させる陽イオンチャネルである。しかし、近年、いくつかのTRPアイソフォームが、陽イオン透過とは異なる「非チャネル機能」を備えることを示唆する知見が得られるようになった。この新奇機能は旧来の理解を超えた発見であるが、機構や生物学的意義の裏付けに乏しく、普遍性は全く未解明である。本研究はTRPの「非チャネル機能」を理解することを目指し、28種のTRPアイソフォームのうち、チャネル(channel)と酵素(enzyme)の両機能を備えるchanzymeであるTRPM2を対象とする。既に、TRPM2のチャネル機能については、活性酸素種(ROS)のH2O2、ADP ribose、及び37℃以上の温度により活性化・チャネル開口が誘導され、高いNa+及びCa2+透過性を示すことが明確にしている。しかし、「非チャネル機能」の研究は未開拓である。そこで、まず、チャネル孔を形成しない可溶性のTRPM2細胞質ドメインに相互作用するタンパク質を網羅的に同定する。次いで、TRPM2タンパク質複合体について、詳細な相互作用部位、活性化因子であるH2O2や透過イオンCa2+の作用様式、C末端の酵素活性の役割等を解析する。また、生物学的役割を評価する系として、最もTRPM2発現が豊富であるマクロファージに着目し、TRPM2複合体のチャネル機能、動態、分解過程を細胞レベルで解析する。さらに、TRPM2複合体が調節するシグナル伝達、及び感染防御・炎症に関係するM1型と創傷治癒に関係するM2型へのマクロファージの機能分極を明らかにする。そして、個体レベルにおいて、TRPM2によるマクロファージの機能分極化の調節と炎症応答等の調節を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
TRPタンパク質の「非チャネル機能」を理解することを目指し、まず、TRPM2における非チャネル機能を仲介するTRPM2細胞質ドメインに相互作用するタンパク質を網羅的に検索し、複数のタンパク質を同定した。特に、Signal transducer and activator of transcription 3 (STAT3) がTRPM2 N-末端側細胞質ドメインに結合するタンパク質であることを明らかにした。TRPM2チャネルに対するSTAT3の作用を組み換え発現系を用いて検討したところ、TRPM2チャネル電流が及びTRPM2発現レベルが抑制されることが分かった。次いで、本複合体の生物学的役割を評価する系として、最もTRPM2発現が豊富であるとともにSTAT3の重要性が知られているマクロファージに着目し、TRPM2-STAT3複合体がどのように、シグナル伝達、及び感染防御・炎症に関係するM1型と創傷治癒に関係するM2型への機能分極化(polarization)を調節するかをかいせきしたところ、M1/M2分類だけでなく、マクロファージの性格付けに重要なタンパク質の発現変化がみられることが分かった。
TRPM2における非チャネル機能を仲介するTRPM2細胞質ドメインに相互作用するタンパク質を網羅的に同定し、STAT3を最も強くTRPM2 N-末端側細胞質ドメインに結合するタンパク質として突き止めることができたので、TRPM2-STAT3タンパク質複合体について、詳細な相互作用部位、活性化因子であるH2O2や透過イオンCa2+の作用様式、C末端の酵素活性の役割等の解析を継続して行う。次いで、本複合体の生物学的役割を評価する系として、最もTRPM2発現が豊富であるとともにSTAT3の重要性も知られているマクロファージに着目し、TRPM2-STAT3複合体のチャネル機能、動態、分解過程の細胞レベルで解析を進める。また、TRPM2-STAT3複合体が調節するシグナル伝達、及び感染防御・炎症に関係するM1型と創傷治癒に関係するM2型へのマクロファージの機能分極化(polarization)等の解明を進める。 そして、個体レベルにおいても、TRPM2-STAT3複合体によるマクロファージの機能分極化の調節と炎症応答等の調節の解明に繋げる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 備考 (1件)
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