研究課題/領域番号 |
19H03422
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
豊福 利彦 大阪大学, 医学系研究科, 特任教授(常勤) (60322179)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / ミトコンドリア / LRRK2 / Sema6D |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアの代謝異常は神経疾患特にパーキンソン病の病態と関わっている。申請者らはミトコンドリア機能調節を担うミトコンドリア・ユビキチン・リガーゼがパーキンソン病の原因遺伝子であるLRRK2により制御されること、さらにこれらユビキチン・リガーゼが神経ガイダンス因子であるセマフォリン分子群のうちSema6Dのターゲット分子であることも見出した。本年度は両者の機能連関の動作メカニズムを検討した。 LRRK2(G2019S)発現細胞、LRRK2欠損細胞に活性型Sema6D及び不活性型Sema6Dを発現した細胞株を樹立し以下の解析を行った。 (A)小胞体―ミトコンドリア間機能連関の検討:(A-1)ミトコンドリア内カルシウム濃度測定:pcDNA-mt-cameleonを導入した細胞において測定する。LRRK2(G2019S)活性型Sema6D(+)細胞ではミトコンドリア内カルシウム濃度低下の抑制が起きた。(A-2)小胞体―ミトコンドリア間のタンパク質間結合の評価:Proximity ligation 法を用いる。小胞体に局在するIP3受容体とミトコンドリアに局在するVDACの蛋白質間結合により小胞体―ミトコンドリア間結合を評価する。LRRK2(G2019S)活性型Sema6D(+)細胞では結合の増加が起きた。 (B)ミトコンドリア代謝能の検討: 生細胞を用いた代謝解析は細胞外フラックスアナライザー(プライムテック社製)を使用して培養細胞の酸素消費量を計測し基礎酸素消費量および予備酸素消費量から、細胞のミトコンドリア代謝機能を評価する。LRRK2(G2019S)活性型Sema6D(+)細胞では代謝機能の低下が抑制された。このようにLRRK2とSema6Dはミトコンドリア機能において相反する制御機構を持つことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリアは細胞内代謝とりわけエネルギー産生における中心的器官である。定常状態でのエネルギー産生に加え、飢餓状態ではオートファジーによる自己消化作用で細胞内物質の再利用により細胞機能の維持を行い、再生不能状態ではアポトーシス(細胞死)により細胞の除去を行う。このように細胞の運命決定機構としても重要な役割のあるミトコンドリアは多くの疾患とりわけ神経変性疾患において、その機能異常と病態の関連が報告されてきている。申請者らはパーキンソン病の病態にミトコンドリア・ユビキチン・リガーゼ活性の過剰増加によるエネルギー代謝の低下を見出した。今回、Sema6DとLRRK2がミトコンドリア・ユビキチン・リガーゼを介してミトコンドリア代謝機能の調節を行う機能連関を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
パーキンソン病は原因遺伝子であるLRRK2のキナーゼ活性部位の変異し活性の亢進したLRRK2(G2019S)により発症する。今回の研究でSema6DがLRRK2(G2019S)のミトコンドリアに対する抑制効果を確認した。このようにLRRK2とSema6Dはミトコンドリア機能において相反する制御機構を持つことが分かった。今後は以下の生化学的解析を行う。 (A)オートファジー機能の検討: Tunicamycinにより4時間培養後、オートファジー誘導についてLC3-II形成をウエスタンブロットにて検討する。さらに共焦点レーザー顕微鏡でLC3で染色されたオートファゴゾームの形態とリソソームの位置関係と融合の有無を検討しオートファゴゾーム形成を検証する。 (B)ミトコンドリア代謝能の検討: 生化学的解析は培養細胞よりミトコンドリアを分離精製し、電子伝達系を構成するcomplex I, IV活性を測定する。 さらにATP濃度はd-luciferinを使用した測定キット(Molecular Probe社)にて測定する。 (c)ユビキチン・リガーゼ機能の検討: 精製したユビキチン・リガーゼと基質となるMAM構成タンパク質のmitofusinを混合し、UbcH7存在下でインキュベートする。ユビキチン化されたmitofusinはSDS-PAGEにて展開し、抗ユビキチン抗体、抗mitofusin抗体にて検出する。 今後、LRRK2(G2019S)によるパーキンソン病の治療にSema6Dの投与の有効性を解析する予定である。
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