研究実績の概要 |
組織特異的な遺伝子発現やエピゲノミクス解析においては、個体や臓器から特定の細胞集団を高い純度で「分取」しなければならない。しかしlaser microdissection法では微小な細胞集団の分離は難しく、cell sortingでは酵素処理で細胞懸濁するさいのダメージは避けられない。本研究はそのような「分取」とは異なる、まったく新たな手法を開発する。これは光開裂型の化学修飾を施したcagedオリゴDNAを組織切片に滴下し、関心領域(ROI)にUV照射後、常法通りのRNA-seqやATAC-seqをおこなうと、ROIだけの遺伝子発現やopen chromatin情報が得られる。原理上、本手法の分離能は光学限界レベルまで引き上げることができ、また少数細胞に特化した既存のゲノミクス手法をわずかに改変したものであるため、感度に優れた汎用性の高い技術として広く利用されることが期待される。 2019年度はUV照射領域に限定可能なRNA-seq法を開発した。また2020年度はマウス海馬への活用を進めた。まず成体マウス脳を未固定のまま急速凍結して切片を作製し、核染色試薬で海馬を可視化した。つぎにcagedオリゴDNAを滴下して逆転写反応し、ROI(海馬のCA1, CA3, 歯状回)にUVを照射した。切片の全細胞をproteinase Kで消化してmRNA:cDNAハイブリッドを精製し、その後は、常法のCEL-seq2法にしたがってIVT、ライブラリ合成、シーケンス反応をおこなった。その結果、どのreplicateも1万個ほどの遺伝子が検出された。また約800個の遺伝子がDEGとして検出され、そのうちのいくつかを既報論文と比較したところ、UV照射領域と一致する発現パターンが確認された。
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