研究課題/領域番号 |
19H03428
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
寿野 良二 関西医科大学, 医学部, 講師 (60447521)
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研究分担者 |
斉藤 毅 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (80609933)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | GPCR / バイアスドリガンド / クライオ電子顕微鏡 / シグナル伝達 / SBDD |
研究実績の概要 |
創薬ターゲットとして知られているGPCRは細胞外からの生理活性物質と結合すると細胞内の種々のシグナル伝達因子と結合し、それらを活性化する。Gタンパク質とアレスチンの2つの異なるシグナル伝達経路の一方を選択的に活性化するリガンド(バイアスリガンド)が知られており、副作用のない治療薬として期待されている。本研究では、GPCRとGタンパク質あるいはアレスチンとの複合体のX線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡単粒子解析を行い、その構造情報からGPCRのGタンパク質およびアレスチンを介したシグナル伝達機構および作動薬結合様式を解明する。さらに構造情報をもとにした迅速で合理的なバイアスリガンドの開発とその技術の発展に貢献する。 本研究ではいくつかのGPCRとGタンパク質、アレスチン複合体の構造解析を目指している。昨年度はそのうちの1つのGPCR-Gタンパク質複合体の構造が現在3.7A分解能で決定できた。現在さらに同一のGPCRに対して、異種のGタンパク質との複合体形成に成功したので、これらについてもクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を進めている。これらの構造情報からGPCRに対して共役するGタンパク質の選択性やそれぞれにおける活性化状態について議論し、論文投稿を準備する。 また、他のGPCRについてもGタンパク質との複合体を形成できたので、そちらについても構造解析を進めている。さらにアレスチンとの複合体を目指して、必要なコンポーネントの発現精製を進めている。本年度は新たなGPCR-Gタンパク質およびアレスチン複合体の構造決定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は作動薬、Gタンパク質およびアレスチン結合GPCR複合体の構造を決定し、その構造情報から、以下の4つを目的とする (1)OX2Rと様々な作動薬の結合様式、作動薬結合依存的な構造変化の解明。 (2)Gタンパク質あるいはアレスチン結合状態のGPCRの構造変化と作動薬結合様式の解明。 (3)これら(1)(2)を含めたGPCRのシグナル伝達の分子機構の解明。 (4)(3)の情報を元にしたバイアスリガンド開発 このうち(1)についてはGタンパク質との複合体形成に成功しており、クライオ電子顕微鏡によるグリッド作成条件の検討とサンプル調製を繰り返し、高分解能条件の検討を開始している。X線結晶構造解析での構造決定を手法の一つに取り入れていたが、予定より早く複合体形成に成功したので現在の技術ではクライオ電子顕微鏡による単粒子解析(Cryo-EM SPA)での解析が構造決定に早い可能性が高いので、Cryo-EM SPAに力を入れている。(2)では、別のGPCRであるEP3とGタンパク質複合体構造が予定よりも早くCryo-EM SPAのよって現在3.7A分解能で構造決定できた。現在、論文投稿準備中で、更に数種のGタンパク質複合体の構造解析を進めているところである。また、アレスチンについては近年3種類のGPCR-アレスチン複合体構造が報告され、それらの情報をもとにして計画を再検討した。特にアレスチンのコンストラクトで有用な情報が報告されたので、申請者のプロジェクトでも同様のアレスチンコンストラクトを作製中である。(3)については構造決定できたEP3-Gタンパク質複合体について、Gタンパク質結合状態でのGPCRの構造変化について検討し、シグナル伝達機構についての新たな知見をまとめて論文投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は本プロジェクトの初年度にCryo-EM SPAの一連の技術を習得し、構造決定まで成功することができた。申請書ではX線結晶構造解析と並行して進める予定であったが、時間、コスト、労力を考慮して、発展的にプロジェクトの方針をCryo-EM SPAに一本化する方向で変更する。研究スピードやコスト以外でも、本研究においては分解能が同等であれば得られる情報はCryo-EM SPAの方が多いと期待される。例えば、タンパク質が様々な状態の構造を形成する場合、Cryo-EM SPAではそれらの構造を一つの実験で構造決定できる可能性がある。X線結晶構造解析の場合、様々な構造状態を安定化する条件、コンストラクトを作製し、結晶化に成功するステップがあるため、時間とコストと労力がかかる。 EP3-Gタンパク質複合体の構造決定に成功した。次の達成目標は、現在進めている他のGタンパク質との複合体構造解析と、サンプル調製が比較的順調であるOX2R-Gタンパク質複合体の構造決定と考えている。並行してアレスチンの発現、精製を検討しながらアレスチンと複合体を安定に形成するEP3,OX2Rのコンストラクトや形成条件を検討する。本年度はEP3-Gタンパク質およびOX2R-Gタンパク質複合体の構造決定もしくは低分解能でのデータ収集、アレスチンの精製とGPCRとの複合体形成の成功を目標にしている。
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