研究課題
【目的】創薬ターゲットとして知られているGタンパク質共役受容体(GPCR)は細胞外からの生理活性物質と結合すると細胞内の種々のシグナル伝達因子(Gタンパク質やアレスチン、キナーゼなど)を活性化する。Gタンパク質とアレスチンの異なるシグナル伝達経路の一方を選択的に活性化するリガンド(バイアスドリガンド)は、副作用のない治療薬として期待されている。一方で、バイアスドリガンドの開発には膨大な化合物スクリーニングの労力を要しており、効率的な薬剤開発技術が求められている。本研究では、GPCR(オレキシン2受容体(OX2R)およびプロスタグランジンE2受容体EP3とGタンパク質あるいはアレスチンとの複合体、作動薬結合状態構造のX線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡単粒子解析(Cryo-EM SPA)を行う。本研究ではGPCR-Gタンパク質およびアレスチン複合体構造を比較した情報をもとに、迅速で合理的なバイアスドリガンドの開発とその技術の発展に貢献する。【研究実績】数種類あるGタンパク質のうち、OX2R,EP3それぞれと最も安定な複合体を形成する条件を選別する。EP3-GiおよびGo,G13複合体、OX2R-Gi/o複合体について条件検討を重ね、安定な複合体条件を見出しており、EP3-GiについてはCryo-EM SPAにより3.4A分解能で構造決定できた。我々のグループでは別のサブタイプEP4-Gタンパク質との複合体構造も決定しており、Gタンパク質の種類が異なることからプロスタグランジン受容体のGタンパク質選択性の構造基盤について検討し、シグナル伝達活性に重要なアミノ酸について変異体による薬理学的解析を行って議論した論文を投稿中である。また、GPCR-アレスチン受容体複合体構造解析に向けて必要なコンポーネントの生産および安定な複合体形成条件をクライオ電子顕微鏡観察によるスクリーニングで検討している。
2: おおむね順調に進展している
GPCRとシグナル伝達因子複合体の構造解析を通じてバイアスドリガンドを設計することを目的として、OX2R,EP3受容体を用いた構造解析を進めている。課題申請の内容どおり、EP3-Gi複合体の構造を3.4A分解能で決定し、Gタンパク質とEP3の結合状態を明らかにするとともに既知の他のGPCR-Gタンパク質構造と比較し、シグナル伝達に重要と考えられるアミノ酸の変異体解析を通じて、これまで知られていなかったGタンパク質選択性に重要なアミノ酸の存在を明らかにした。OX2Rについては、OX2R-GiおよびGq/11の複合体形成には成功しているものの構造決定までに至っていないが、コンストラクトを検討して随時クライオ電子顕微鏡による観察を進めている。EP3およびOX2R-アレスチン複合体については受容体、キナーゼ、アレスチンなどのコンポーネントが準備でき、現在までに受容体のリン酸化、複合体形成条件の検討を進めている。今年度はゲルろ過HPLCによって複合体形成を確認したサンプルについてクライオ電子顕微鏡によるスクリーニングを進めた。
【GPCR-Gタンパク質複合体の構造解析】近年のCryo-EM SPAの技術革新によりGPCR複合体の構造解析の研究は世界的に高速化している。EP3-Gi/o複合体構造決定に成功したので、この経験、技術を生かしてOX2R-Gタンパク質複合体についても迅速な構造決定を目指す。研究分担者である筑波大学 斎藤が独自に開発したナルコレプシー治療薬候補を使った構造決定を通じて、作用機序を構造生物学的に明らかにすることを目的とする。【GPCR-アレスチン複合体構造解析】受容体やキナーゼ、アレスチンの精製に成功し、現在までに複合体形成条件を検討してきた。今後は筑波大学が開発したナルコレプシー治療薬候補を利用した受容体のリン酸化条件の検討、構造解析可能なさらなる安定な複合体形成条件の検討を通じて、Cryo-EM SPAを行う。【バイアスドリガンドの合成と薬理学的評価】OX2Rについては上述の情報を研究分担者 筑波大学 斎藤にフィードバックし、新規構造の化合物合成、薬理学的解析、マウスを用いた動態などの実験を行い、より選択性が高く、副作用の少ないバイアスドリガンドの創出を目指す。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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