研究課題
本年度は、以下の結果を得た。1)アミノ酸飢餓時にVCPが引き起こす細胞内凝集体の意義の解明:昨年度までの解析で、前立腺癌由来のPC3細胞では、飢餓時に、他のアミノ酸がなくグルタミンのみが存在するとVCP蛋白質が凝集体から遊離してフリーになること、その時、急激な細胞死が誘導されること、また、シスチンが存在するとVCP蛋白質がフリーになっても細胞死が誘導されないことが判明した。本年度は、シスチンの代謝産物の減少が細胞死を誘導していると仮定して、グルタミンのみの添加によって減少するシスチンの代謝産物を生化学的に検索し、それがGSHであることを見いだした。さらに、GSHの細胞死の過程での減少にはROSが原因となっていることを明らかにした。2)アミノ酸飢餓時にVCPの凝集によって阻害される細胞死の分子メカニズムの解明:昨年までの解析で、この細胞死はネクローシス細胞を染色するエチジウムホモタダイマーIIIで染色されること、さらにこの時にはATPの減少は伴わないこと(グルタミンから供給される)、ERストレス及びcaspase3の活性化も観察されないことから、この細胞死はアポトーシスでないことが判明していた。本年度は、この急激な細胞死に対し、アポトーシス以外の細胞死(ネクロプトーシス,フェロトーシス、パイロトーシスなど)の特異的なマーカーと阻害剤による検証を行い、本細胞死がフェロトーシスであること、また、本細胞死は、ROSが誘導していることを明らかにした。3) KUS121は、急性腎不全モデル、外傷性膝関節症モデルの病態を改善する作用を有することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
細胞内の主要なATPaseであるVCPの新たな機能として、VCPは飢餓時に細胞内で凝集体様の構造体を形成し、細胞を細胞死から保護する役割を担っている可能性を見いだしてきたが、このVCPが防御している細胞死は、ROSによって誘導されるフェロトーシスであり、この時、細胞内でシスチンの代謝産物であるGSHが減少することが、ROSのレベルを高めていることを明らかにできた。また、我々が独自に開発したVCPのATPase活性の特異的な阻害剤KUS121が、急性腎不全と外傷性膝関節症の動物モデルの病態を改善する作用を持つことが判明し、KUS121が急性腎不全、外傷性膝関節症に対する新たな治療薬になる可能性を見いだした。以上のように、本研究は、順調に進展している。
来年度は、以下の点について解析を行う。1)アミノ酸飢餓時にVCPが引き起こす細胞内凝集体の意義の解明:これまでの解析でVCPが感知しているアミノ酸の減少はグルタミンの減少であること、他のアミノ酸がなくグルタミンのみが存在すると、急激な細胞死が誘導されることが判明した。また、この時、シスチンが存在すると細胞死が誘導されないことが判明し、その時に細胞死を防いでいるシスチンの代謝産物がGSHであること、それが、ROSの消費に使われるためであることが判明した。一方、GFPを融合したVCPは凝集体に移行しないことが明らかになった。そこで、来年度は、GFPを融合した野生型VCPおよびATPase活性を持たないVCP(K524A)をアミノ酸フリーの培地で発現させ、細胞の生存具合、ROSおよびGSHレベルを測定する。本実験により、VCPが凝集体を形成することで、細胞内のROSの上昇とGSHの消費を抑制し、PC3細胞を細胞死から保護しているることを証明する。2)アミノ酸飢餓時にVCPの凝集によって阻害される細胞死の分子メカニズムの解明:これまでの解析から、この細胞死はフェロトーシスであること、そして上記の結果から、このフェロトーシスはROSの産生によってもたらされることが判明した。そこで、ROSの主たる産生部位がミトコンドリアであることを考慮し、本年度は、VCPの凝集の有無とミトコンドリアの膜電位の関連性を解析し、フリーのVCPが存在することが、ミトコンドリアの活性を維持する上で必要であることの証明を試みる。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
Sci Rep
巻: 10 ページ: 21653
10.1038/s41598-020-78731-2.
巻: 10 ページ: 20787
10.1038/s41598-020-77735-2.
eLife
巻: 9 ページ: e61960
10.7554/eLife.61960.
J Hum Genet
巻: 65 ページ: 363-369
10.1038/s10038-019-0717-y.
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2020-12-17-1