研究課題/領域番号 |
19H03441
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中山 淳 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (10221459)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 胃発癌 / 炎症 / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
胃の腺粘液に含まれるα1,4結合型N-アセチルグルコサミン(αGlcNAc)を欠損するA4gnt KOマウスの幽門粘膜では、炎症を基盤に分化型腺癌が自然発生するが、その分子機構は明らかにされていない。最近、我々はαGlcNAcがMUC1とIL-11を介するがん関連シグナルを抑えることで胃分化型癌の発生を制御している可能性を見出した。本研究の目的はMUC1とIL-11に着目し、αGlcNAcによる胃分化型癌抑制の分子機構を解明することである。令和元年度はA4gnt KOマウスの胃幽門粘膜において、免疫組織化学的に野生型マウスの幽門部では幽門腺に限局するMUC1の発現が、加齢とともに腺管下層から上層に拡大することが示された。一方、A4gnt KOマウスの幽門部におけるIL11Raは、週齢を通じて腺管下層の上皮細胞に発現していた。次に、A4gnt KOマウスと野生型マウスの胃腺粘膜から抽出した蛋白質を対象としたウエスタン解析で、A4gnt KOマウスにおけるp-STAT3、p-ERK1/2、p-AKTの発現は、野生型マウスと比較して亢進していることが示された。一方、免疫組織化学的にp-STAT3はA4gnt KOマウスの幽門部で腺管下層の上皮細胞のみならず、間質の単核球にも発現していることが見出された。また、p-ERK1/2とp-AKTは腺管上層の上皮細胞に発現していることが示された。以上の結果より、A4gnt KOマウスの幽門部では、1) 腺管下層の上皮細胞でIL-11を介するSTAT3の活性化が生じていること、2) 単核球でもSTAT3が活性化されることで癌微小環境が形成されること、3) 腺管上層の上皮細胞ではMAPK経路とPI3K/AKT/mTOR経路の活性化が生じていること、の3点が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果により、A4gnt KOマウスの幽門部において、腺管下層の上皮細胞ではIL-11を介してSTAT3の活性化が生じる一方、腺管上層ではMAPK経路とPI3K/AKT/mTOR経路の活性化が生じており、腺管下層と上層で異なるがん関連シグナルが関与していることを示すことができた。さらに間質の単核球でSTAT3が活性化されることで、癌微小環境の形成に寄与していることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果でA4gnt KOマウスの幽門部において腺管下層の上皮細胞にIL11Raとp-STAT3が発現していたことから、αGlcNAcはIL-11/GP130/JAK/STAT3シグナルを制御することで胃分化型癌の発生を抑えているという、研究開始当初の仮説を支持する結果が得られた。そこで、今後はαGlcNAc が野生型マウス由来のGP130あるいはIL11Raに付加しているか否かについてと、A4gnt KOマウス由来のGP130にリン酸化が生じているか否かについて解析する。次に、A4gnt KOマウスの単核球ではp-STAT3が発現していたがIL11Raは発現していなかったことから、単核球におけるSTAT3の活性化にIL-11以外の関与が示唆される。この単核球の種類を同定すると同時に、その活性化に関与する分子種を探索する。さらに、A4gnt KOマウス幽門部の腺管上皮におけるNFkBシグナルの関わりについても解析する。
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