消化管癌の薬剤耐性オルガノイドを用いた癌幹細胞性制御機構の解明と診断治療への展開

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 19H03443
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 安井 弥 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (40191118)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 消化管癌 / 癌幹細胞 / オルガノイド / 抗癌剤耐性

研究実績の概要

本年度は、消化管癌の薬剤耐性の克服・癌幹細胞の制圧を目的とし、患者由来オルガノイドを用いた癌幹細胞制御機構の解明と診断治療への展開を目指し、以下のとおり研究を実施した。
１）薬剤耐性胃癌オルガノイドの樹立： 5-FU 耐性胃癌オルガノイド（GCO）4株に加えて、L-OHP（オキサリプラチン）耐性GCO 3株を樹立した。IC50で3-7倍の耐性を付与することができた。
２）網羅的遺伝子発現解析による薬剤耐性癌幹細胞オルガノイドの分子・遺伝子異常の解析：5-U耐性GCOにおいて2倍以上発現が亢進し、且つ癌で役割の不明である7遺伝子の内、5-FU耐性細胞株では変化の見られなかったKHDRBS3に注目した。KHDRBS3は、CD44vおよびABCC1（MRP1）の発現を制御し、5-FUのみならず、L-OHP、FTD耐性に関わることを見出した。免疫不全マウス異種移植系において、KHDRBS3のノックアウトによる腫瘍形成能及び肺転移巣形成能の低下が確認された。さらに、大腸癌オルガノイドを用いたKHDRBS3解析においても、胃癌と同様に癌幹細胞性を制御していることが示された。L-OHP耐性GCOについての解析では、耐性GCOにおいて有意に発現が亢進していた遺伝子のうち、膜癒合に関係するMYOFに注目した。MYOFはL-OHP耐性細胞株では発現上昇は見られず、癌幹細胞特異的と考えられた。
３）同定した薬剤耐性癌幹細胞特異的分子・遺伝子異常の診断マーカーとしての有用性：
免疫染色による臨床検体を用いた解析で、KHDRBS3陽性は胃癌および大腸癌における独立した予後不良因子であることが示された。一方、MYOF陽性は、胃癌の深達度、リンパ節転移と相関し、多変量解析の結果、独立した予後不良因子であることがわかった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

胃癌、大腸癌手術検体の癌部と非癌部を用いてオルガノイドの樹立を継続している。それらについてはドライバー変異、MSIステータス、molecular classificationの解析を続けている。
薬剤耐性消化管癌オルガノイド（癌幹細胞オルガノイド）の樹立に関しては、胃癌で5-FU耐性GCO、L-OHP耐性GCOを樹立して解析を進めている。遺伝子発現はマイクロアレイ解析を中心に進め、癌幹細胞性を制御する遺伝子の候補を複数同定しており、これらについて、順次詳細な発現、機能解析を行なっている。さらに、RNAシークエンスデータも活用する予定である。

今後の研究の推進方策

胃癌の薬剤耐性オルガノイドに加えて、新たに大腸癌の薬剤耐性オルガノイドを樹立する計画である。薬剤耐性・幹細胞性制御遺伝子の抽出は、マイクロアレイ・RNAシークエンス解析、TCGAやGEOのdata setとの比較、Gene Ontology、Pathway解析等の多角的な解析を行う。さらに、metabolome解析も行う予定である。
抗癌剤耐性（癌幹細胞）に特異的な新規転写産物、発現変化が見られた分子に関しては、臨床例を用いてその発現と臨床病理学的事項および予後との関連を解析し、さらに、抗癌剤の治療効果との相関を検討する計画である。
さらに、薬剤耐性・幹細胞性に特徴的な遺伝子や代謝を標的に、阻害剤を用いて治療応用に向けた基盤的研究を行う。

研究成果

• [雑誌論文] Histological diversity and molecular characteristics in gastric cancer: relation of cancer stem cell-related molecules and receptor tyrosine kinase molecules to mixed histological type and more histological patterns (2021)
  • 著者名/発表者名: Sentani K, Imai T, Kobayashi G, Hayashi T, Sasaki N, Oue N, Yasui W
  • 雑誌名: Gastric Cancer 巻: 24 ページ: 368-381
  • DOI: 10.1007/s10120-020-01133-w.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] KHDRBS3 promotes multi-drug resistance and anchorage-independent growth in colorectal cancer. (2021)
  • 著者名/発表者名: Ukai S, Sakamoto N, Taniyama D, Harada K, Honma R, Maruyama R, Naka K, Hinoi T, Takakura Y, Shimizu W, Ohdan H, Yasui W
  • 雑誌名: Cancer Sci 巻: 112 ページ: 1196-1208
  • DOI: 10.1111/cas.14805.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Impact of the ESM-1 gene expression on outcomes in stage II/III gastric cancer patients who received adjuvant S-1 chemotherapy (2020)
  • 著者名/発表者名: Kano K, Sakamaki K, Oue N, Kimura Y, Hashimoto I, Hara K, Maezawa Y, Aoyama T, Fujikawa H, Hiroshima Y, Yamada T, Tamagawa H, Yamamoto N, Ogata T, Cho H, Ito H, Shiozawa M, Yukawa N, Yoshikawa T, Morinaga S, Rino Y, Yasui W, Masuda M, Miyagi Y, Oshima T
  • 雑誌名: In Vivo 巻: 34 ページ: 461-467
  • DOI: 10.21873/invivo.11796.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] SPC18 expression is an independent prognostic indicator of patients with esophageal squamous cell carcinoma (2020)
  • 著者名/発表者名: Yamamoto Y, Oue N, Asai R, Katsuya N, Uraoka K, Sakamoto N, Sentani K, Tanabe K, Ohdan H, Yasui W
  • 雑誌名: Pathobiol 巻: 87 ページ: 254-261
  • DOI: 10.1159/000506956.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] UC-63+ contributes to gastric cancer progression through regulation of NF-κB signaling (2020)
  • 著者名/発表者名: Sakamoto N, Sekino Y, Fukada, Pham QT, Honma R, Taniyama D, Ukai S, Takashima T, Hattori T, Naka K, Tanabe K, Ohdan H, Yasui W
  • 雑誌名: Gastric Cancer 巻: 23 ページ: 863-873
  • DOI: 10.1007/s10120-020-01070-8.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] linical significance of glioma-associated oncogene 1 expression in patients with locally advanced gastric cancer administered adjuvant chemotherapy with S-1 after curative surgery (2020)
  • 著者名/発表者名: Hashimoto I, Oue N, Kimura Y, Hiroshima Y, Hara K, Maezawa Y, Kano K, Fujikawa H, Aoyama T, Numata M, Yamada T, Tamagawa H, Yamamoto N, Ogata T, Shiozawa M, Morinaga S, Rino Y, Yasui W, Masuda M, Miyagi Y, Oshima T
  • 雑誌名: Anticancer Res 巻: 40 ページ: 5815-5821
  • DOI: 10.21873/anticanres.14599.
  • 査読あり
• [雑誌論文] BRAF mutation leads to increased expression of GREB1 resulting in tumor proliferation in colorectal cancer (2020)
  • 著者名/発表者名: Kochi M, Hinoi T, Niitsu H, Miguchi M, Saito Y, Sada H, Sentani K, Sakamoto N, Oue N, Tashiro H, Sotomaru Y, Yasui W, Ohdan H
  • 雑誌名: Cancer Sci 巻: 111 ページ: 3540-3549
  • DOI: 10.1111/cas.14558.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Molecular biological analysis of 5-FU-resistant gastric cancer organoids; KHDRBS3 contributes to the attainment of features of cancer stem cell (2020)
  • 著者名/発表者名: Ukai S, Honma R, Sakamoto N, Yamamoto Y, Pham QT, Harada K, Takashima T, Taniyama D, Asai R, Fukada K, Naka K, Tanabe K, Ohdan K, Yasui W
  • 雑誌名: Oncogene 巻: 39 ページ: 7265-7278
  • DOI: 10.1038/s41388-020-01492-9.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Clinicopathological significance of intelectin-1 in colorectal cancer: Intelectin-1 participates in tumor suppression and favorable prognosis (2020)
  • 著者名/発表者名: Katsuya N, Sentani K, Sekino Y, Yamamoto Y, Kobayashi G, Babasaki T, Oue N, Amatya VJ, Takeshima Y, Yasui W
  • 雑誌名: Path Int 巻: 70 ページ: 943-952
  • DOI: 10.1111/pin.13027.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Analysis on metabolic pathways using 5-FU resistant gastric cancer organoids (2020)
  • 著者名/発表者名: Sakamoto N, Naka K, Ukai S, Honma R, Taniyama D, Takashima T, Maruyama R, Tanabe K, Ohdan H, Yasui W
  • 学会等名: The 111 th Annual Meeting of the American Association for Cancer Research
  • 国際学会
• [学会発表] 5-FU耐性胃癌オルガノイドの樹立およびその機能解析 (2020)
  • 著者名/発表者名: 鵜飼翔一，坂本直也，本間りりの，谷山大樹，高島剛志，仙谷和弘，大上直秀，安井 弥
  • 学会等名: 第109回日本病理学会総会
• [学会発表] 消化管癌オルガノイドを用いたトリフルリジンの効用の検討 (2020)
  • 著者名/発表者名: 丸山諒太，坂本直也，谷山大樹，本間りりの，鵜飼翔一，仙谷和弘，大上直秀，安井 弥
  • 学会等名: 第109回日本病理学会総会
• [学会発表] 5-FU 耐性胃がんオルガノイドを用いたメタボローム解析 (2020)
  • 著者名/発表者名: 坂本直也，仲 一仁，鵜飼翔一，本間りりの，谷山大樹，高島剛志，仙谷和弘，大上直秀，安井 弥
  • 学会等名: 第109回日本病理学会総会
• [学会発表] オキサリプラチン耐性胃がんオルガノイドの樹立及びその機能解析 (2020)
  • 著者名/発表者名: 原田健司，坂本直也，鵜飼翔一，高島剛志，丸山諒太，本間りりの，谷山大樹，仙谷和弘，大上直秀，安井 弥
  • 学会等名: 第109回日本病理学会総会
• [学会発表] 消化管癌における新しい癌幹細胞のバイオマーカー (2020)
  • 著者名/発表者名: 大上直秀，山本悠司，赤羽慎太郎，大島 貴，仙谷和弘，安井 弥
  • 学会等名: 第40回日本分子腫瘍マーカー研究会
  • 招待講演
• [学会発表] 5-FU耐性胃癌オルガノイドの樹立とその癌遺伝子学的解析 (2020)
  • 著者名/発表者名: 鵜飼翔一，坂本直也，本間りりの，谷山大樹，Quoc Thang Pham，高島剛志，原田健司，仲 一仁，田邊和照，大段秀樹，安井 弥
  • 学会等名: 第79回日本癌学会学術総会
• [学会発表] オキサリプラチン耐性胃がんオルガノイドの樹立及びその機能的解析 (2020)
  • 著者名/発表者名: 原田健司，坂本直也，鵜飼翔一，Quoc Thang Pham，高島剛志，丸山諒太，本間りりの，谷山大樹，田邊和照，大段秀樹，安井 弥
  • 学会等名: 第79回日本癌学会学術総会
• [学会発表] 大腸癌オルガノイドを用いたトリフルリジン効用の検討 (2020)
  • 著者名/発表者名: 丸山諒太，坂本直也，谷山大樹，常國健太，本間りりの，鵜飼翔一，檜井孝夫，大段秀樹，安井 弥
  • 学会等名: 第79回日本癌学会学術総会
• [備考] 広島大学大学院医系科学研究科分子病理学
  • URL: https://home.hiroshima-u.ac.jp/byori1/index.html