研究課題
2年目(2020年度)は前年度に引き続き、骨軟部腫瘍におけるエピジェネティクスの異常を同定する基礎となる塩基配列の情報を得るため、対象となる骨軟部腫瘍に対して次世代シークエンサー(NGS)を利用した遺伝子解析を継続している。本年度は粘液性分と未分化多形肉腫様成分のいずれの成分も有する粘液線維肉腫10例を抽出し、未分化多形肉腫10例、特に粘液線維肉腫は古典的な粘液線維肉腫成分と未分化多形肉腫に相当する組織像を呈する領域に分けて網羅的遺伝子解析を施行中の状態である。また、ヒストンH3.3異常を検出するため、H3K27me3免疫染色を多数種の骨軟部腫瘍に対して施行した。悪性抹消神経鞘腫は昨年度H3K27me3発現欠失を86例中37例(43%)に確認されたが、同腫瘍の骨格筋分化およびに末梢神経分化の程度と併せて評価することにより、発現欠失が見られる腫瘍には骨格筋分化が観察される傾向があることが統計学的に示された。同内容は論文投稿中の状態である。また、血管内膜肉腫20例においてもH3K27me3発現を免疫組織化学的に確認し、20例中2例で発現欠失が認められた。血管内膜肉腫における発現欠失はこれまでに報告されておらず、その意義も不明であるため、今後同腫瘍に関しても検討を行う方針である。骨原発未分化多形肉腫より悪性GCTB9例(primary 3,secondary 6)を抽出し、NGS解析した。うち2例のsecondary MGCTBはH3.3G34Wが陰性転化しており、FISHでH3FA3片アレルの欠失を認めた。4例でNGSをし、3例でTP53変異、1例でEZH2変異を認めた。p53変異並びに、H3K27me3欠失で表されるエピジェネティックな異常がGCTBの悪性転化や形態形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
4: 遅れている
2年目(2020年度)は当初、初年度から継続しているNGSを用いた塩基配列の以上の同定を終了し、バイサルファイトシーケンス法を利用したエピゲノムの解析を進める予定であったが、コロナウイルス感染拡大のため教室内での実験及び外注実験が大幅に遅れたことを受け、今年度は未施行の状態である。代替的な研究として、H3K27me3発現欠失の有無に関する検討を多数種類の骨軟部腫瘍において行い、悪性抹消神経鞘腫および血管内膜肉腫に関してはその結果をまとめて論文投稿を進めている状態である。粘液線維肉腫のNGS結果は未解析の状態であるため、今後は解析を進めるとともに未分化多形肉腫との遺伝学的な違いを明らかにすることを目標に病理組織との比較をまとめ、論文作成する方針である。未分化多形肉腫50例、粘液線維肉腫100例、悪性末梢神経鞘腫100例、骨巨細胞腫50例のホルマリン固定パラフィン包埋標本あるいは利用可能な場合は凍結標本を対象としてNGS解析を進行しているが、今年度から粘液型脂肪肉腫150例を対象として、同様にNGS解析を開始しており、TERTやp53遺伝子など既知の遺伝子異常の有無を確認するとともに、既知の遺伝子異常で説明されない組織学的変化を統計学的に明らかにする方針である。
当初、未分化多形肉腫、粘液線維肉腫、悪性末梢神経鞘腫、骨巨細胞腫の4腫瘍を対象として検索を行ってきたが、H3K27me3をはじめとしたヒストン遺伝子の異常が多数の腫瘍において関与されている可能性があることを受け、遺伝子転座を有しない肉腫だけではなく、遺伝子転座をを有している腫瘍に関しても、新たに対象症例に加えて解析を行っていく方針である。該当する腫瘍に関して、NGSにより遺伝子変異の有無を確認し分類を進めるとともに、遺伝子変異により分類に至らない集団を同定していく。遺伝子転座により既に遺伝学的なグループが確立されている群についても、同一腫瘍内の組織学的変化が塩基配列の異常では説明されないものが多数存在するため、これらも対象に加えて検討を行っていく。具体的には、粘液型脂肪肉腫150例を使用し、粘液性成分と円形細胞成分など組織学的に異なる2つの領域をNGSにより遺伝学的に比較する方法とる予定である当教室の整理された骨軟部腫瘍データベースを用い、遺伝子ないしエピジェネティクスのデータを取得次第利用可能な状態であるため、本研究の対象として該当する腫瘍を速やかに抽出し、臨床的あるいは病理組織学的な知見から解析を行うことが可能である。治療に直結するような意義を有する遺伝子異常ないしエピジェネティクス異常を発見することが目標の一つであるため、より多くの腫瘍を対象とすることが重要と考える。また、これまで同様、エピゲノム的異常を解析する方法として、既知のメチル化異常であるH3K27me3の有無を検索するとともに、バイサルファイトシーケンス法により網羅的にメチル化を解析する方針であるが、ヒストンバリアントの発現量についてプロテオーム解析で検討するなど、他の解析法についても実行可能なものは追加して行く方針である。
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