研究課題/領域番号 |
19H03445
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
浅田 祐士郎 宮崎大学, 医学部, 教授 (70202588)
|
研究分担者 |
前川 和也 宮崎大学, 医学部, 助教 (30754171)
佐藤 勇一郎 宮崎大学, 医学部, 准教授 (90347055)
山下 篤 宮崎大学, 医学部, 准教授 (90372797)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | アテローム血栓 |
研究実績の概要 |
心筋梗塞などのアテローム血栓症は動脈硬化巣(プラーク)破綻に伴う血栓の形成・増大機序について検討を行った。 1)冠動脈吸引血栓標本を用いた解析:急性心筋梗塞患者の責任冠動脈から吸引採取された血栓・プラークの病理組織標本の解析において、血栓形成部では凝固系が著しく亢進していること、血小板はフォンビルブラン因子やフィブリンを足場に凝集していることを見出した。また好中球細胞外トラップは血栓の初期の器質化に寄与してことが示唆された。 2)冠動脈ハイリスクプラークの新たな画像診断法の確立:アテローム血栓症の発症予測として、易破綻性の冠動脈プラーク(ハイリスクプラーク)の非侵襲的検出法が求められている。ミトコンドリア膜透過性遷移孔の構成タンパクであるTranslocator protein(TSPO)は、冠動脈プラーク中のマクロファージに高発現がみられた。ウサギ動脈硬化モデルを用いて、TSPO を標的としたPETイメージングを行い、ハイリスクプラークを非侵襲的に検出できることを明らかにした。 3)プラーク成分の網羅的代謝解析によるステント血栓症の抑制因子の評価:ウサギ動脈硬化モデルを用いて、ベアメタルステントとエベロリムス溶出性ステント留置後の新生内膜のメタボローム解析を行った。その結果、エベロリムス溶出性ステント留置では平滑筋細胞内グルタミンの増加がみられ、これが組織因子発現を抑制し凝固活性を低下させることによって、ステント血栓症の予防に働く可能性が示唆された。 4)新規抗凝固薬の血栓抑制評価:ウサギ血栓症モデルを用いて、活性化血液凝固XI因子阻害低分子化合物の抗血栓作用と出血リスクを評価した。その結果、出血リスクは軽微で有意な抗血栓作用が確認され、安全性の高い新規の抗血栓薬の可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラーク破綻後の血栓形成能に寄与するプラーク成分とその画像診断への応用について検討を行った。その結果、 1)冠動脈吸引血栓標本を用いて、アテローム血栓の形成における凝固系、炎症の関与を検討し、プラーク破綻部での血栓形成の開始には凝固系およびフォンビルブランド因子が強く寄与すること、また好中球細胞外トラップは、ヒトのアテローム血栓形成においては、大きな関与はしていないことを見出したことは臨床的に重要な所見である。2)TSPOを標的としたPET イメージングは、易破綻性のハイリスク動脈プラークを非侵襲的に検出できることを見出し、アテローム血栓症の発症予測において有用な診断手法であることを明らかにした。3)エベロリムス溶出性ステント留置ではステント血栓症の発生頻度は低い。この機序として、血管壁平滑筋細胞内グルタミンの増加が組織因子発現を抑制し、凝固活性を低下させることを見出し、細胞内グルタミンが血栓形成能を制御することを示した。4)活性化FXI阻害物は、出血リスクが低く、安全性の高い新規の抗血栓薬の可能性を明らかにした。 以上の結果はいずれも今後のアテローム血栓症研究の進展に重要な内容であり、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの研究結果を踏まえて、下記の内容について研究を進める。 1)プラーク成分の網羅的代謝解析により見出した代謝物について、さらに解析を進め、これらの代謝産物がどのように催血栓、抗血栓作用を呈するかについての検討を進める。 2)動物モデルを用いてTSPOを標的としたPETイメージングの解析を進め、ハイリスクプラークのどの成分にTSPOが蓄積するかを明らかにし、臨床応用への基盤作りを進める。 3)アテローム血栓の形成における活性化FXI阻害による抗血栓作用について、アテローム血栓の動物モデルおよび血液フローチャンバーを用いて定量評価し、血流因子(流速・ずり応力・乱流)の関与についての解析を進める。
|