研究実績の概要 |
前年度までの検討により確立した病理標本の組織評価法、およびホルマリン固定パラフィン包埋材料からのDNA抽出法に基づき、肺腺がんの早期病変における特徴的な遺伝子変異や変異シグネチャーの特徴を検出することを目的とて、がんの組織を用いた次世代シーケンス解析(全エクソーム解析)を行った。 【方法】対象とした検体は手術切除された肺癌組織で、早期肺腺癌である、肺上皮内腺癌(AIS)、微少浸潤腺癌(MIA)の全60症例である。各症例のがん病変部位の組織、および非がん肺組織を実体顕微鏡で切り出し、DNAを抽出して、ライブラリ調整のうえ全エクソームシーケンスを施行した。ゲノムの塩基配列から、がん関連遺伝子や変異シグネチャーの抽出をおこなった。 【結果】がん関連遺伝子については(1) EGFR変異陰性例でKRAS, BRAF, ERBB2, PDGFRA変異などが見られ、(2) AIS/MIAの違い(すなわちがんの進行度の違い)より性別、喫煙の有無による差が大きかった。変異シグネチャーについては, (1) 喫煙者は非喫煙者よりC>A substitutionが多いこと、(2) 喫煙者EGFR変異陽性例ではC>A substitutionの有意な増加は見られず、さらに(3) 非喫煙者EGFR変異陽性例におけるSBS2/13のシグネチャーが着目された(APOBEC活性によるC>T変異)。 【結論】肺腺癌の早期病変60症例につき、全エクソームシーケンスよりがん関連遺伝子変異の特徴や変異の特徴を抽出することができた。喫煙者であっても、喫煙関連で無い癌が生じるがそのシグネチャーが抽出された可能性がある。
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