研究課題
1.肝細胞特異的p53欠損マウスにHRAS,Mycを組み込んだSBトランスゾンベクターをトランスポゼース発現ベクターとともに尾静脈から急速静注する実験を行った.その結果,p53欠損がHRAS腫瘍において肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換を促進すること,HRAS/Myc腫瘍のMyc蛋白発現がp53欠損により亢進し,脱分化型形質が出現することが明らかになった.2.単層培養したp53欠損マウス肝細胞にトランスポゾンシステムを用いて種々の癌遺伝子を導入し,多くの形質転換細胞株を樹立した.これらを同系マウスの脾臓に注入し,肝内腫瘍が形成されることを確認した.HRAS,HRAS/Mycにより形質転換された腫瘍株はin vivoで胆管癌もしくは混合型肝癌の組織像を示した.3.HRASとNotch1細胞内ドメイン(N1ICD)の肝細胞への導入による肉腫様肝癌の発生過程を検討した.形質転換細胞は初期から間葉系細胞様の形態をとっていたが,一部に不完全な胆管構造が観察された.また,肉腫様肝癌ではNotch経路のエフェクターであるHES1が核に強く発現するが,ヒト肉腫様肝癌の2症例でもHES1の核内発現が確認された.4.マウス慢性四塩化炭素傷害により誘導した肝腫瘍(高分化型肝細胞癌)のサンプル(n = 5)からDNAを採取し,全エクソーム解析を行い,正常肝組織と比較した.その結果,腫瘍形成に関連すると思われる共通のドライバー遺伝子の変異は見出されず,慢性肝傷害後の肝腫瘍発生過程においてはエピゲノム変化がより重要であることが示唆された.引き続き,腫瘍DNAサンプルの5mCおよび5hmC修飾状態を網羅的に調べ,現在その結果の解析を進めている.5.肝細胞標識系を用いた肝細胞の三次元培養で,長期間培養後に非標識細胞が増加する現象が明らかになり,来年度はその意義を明らかにする予定である.
2: おおむね順調に進展している
肝細胞性腫瘍の表現型を決定するメカニズムとしての分化転換や脱分化の重要性が明らかになった.また,肝硬変から肝細胞癌の発生メカニズムに関して新しい知見が得られ,今後の研究方向が明確になった.
1.肝細胞の脱分化現象のメカニズムをp53とMycの相互作用を中心に検討を進めていく.2.マウス肝細胞由来胆管癌(混合型肝癌)細胞株の移植系を用い,組織型決定におけるケモカイン発現やCTGF発現の意義を調べる.3.レインボーマウスを用い,マウス肝硬変の再生結節のクローン性を検討する.4.標識した肝細胞の長期間三次元培養を行い,非標識細胞が培養経過でどのように増加するかを明らかにする.5.慢性四塩化炭素傷害で誘発された肝腫瘍のエピゲノム異常の解析を進め,影響を受ける細胞内シグナル系を同定する.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
J Surg Res
巻: 245 ページ: 410-419
10.1016/j.jss.2019.07.058
PLoS One
巻: 14 ページ: e0226183
10.1371/journal.pone.0226183
J Control Release
巻: 310 ページ: 74-81
10.1016/j.jconrel.2019.08.011
Hepatol Commun
巻: 3 ページ: 697-715
10.1002/hep4.1327
Intern Med
巻: 58 ページ: 1747-1752
10.2169/internalmedicine.2330-18
Methods Mol Biol
巻: 1905 ページ: 221-236
10.1007/978-1-4939-8961-4_20