研究課題/領域番号 |
19H03448
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
西川 祐司 旭川医科大学, 医学部, 教授 (90208166)
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研究分担者 |
後藤 正憲 旭川医科大学, 医学部, 助教 (00432203)
藤井 裕美子 旭川医科大学, 医学部, 助教 (30722334)
田中 宏樹 旭川医科大学, 医学部, 助教 (70596155)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肝腫瘍 / 肝細胞癌 / 胆管細胞癌 / 混合型肝癌 / 分化転換 / 脱分化 |
研究実績の概要 |
1.p53欠損が肝細胞性腫瘍の表現型に与える影響を検討し、Myc活性化を伴う場合には肝芽細胞方向へ脱分化するが、伴わない場合には胆管上皮方向への分化転換を促進することが明らかになった。また、脱分化にはYAPの活性化とERKリン酸化抑制が、分化転換にはERKリン酸化が関連していた。脱分化、分化転換いずれにおいてもエピゲノム調節に関連する因子の遺伝子発現の変化が認められた。 2.p53をノックアウトしたマウス初代肝細胞に種々の癌遺伝子(HRAS、AKT、Myc、NICD)を組み合わせ、トランスポゾンシステムを用い導入して得られた肝癌細胞株を同系マウス肝に移植する実験を継続して行った。多くの移植可能な細胞株を樹立することができ、それらの表現型について詳細に解析した。同所移植後の腫瘍の組織像は肝細胞癌、混合型肝癌、胆管癌など多彩であった。免疫組織化学、RT-PCRにより種々の分化マーカーの発現を検討し、分化転換と脱分化の二次元配置で各腫瘍細胞株の表現型を分類できることが示唆された。また、部分的上皮・間葉転換が肝細胞癌の一部で起こっていることが明らかになった。 3.マウス肝硬変から肝細胞癌が形成されるモデル(慢性四塩化炭素傷害)において、遺伝子メチル化解析を実施し、以前行ったマイクロアレイ解析および全エクソーム変異解析と対比させながら検討を進めた。これまでの解析では肝細胞癌においてこれまで報告されているドライバー遺伝子の異常は認められないが、パスウェイ解析ではRasとMAPK経路の活性化が明らかになった。これにRac2遺伝子脱メチル化と遺伝子発現増加が関連している可能性があり、検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝細胞特異的p53ノックアウトの肝腫瘍表現型への影響について論文を公表することができた。また、トランスポゾンシステムを応用したin vitro肝細胞形質転換系で、肝細胞の脱分化および分化転換、さらに上皮-間葉転換のメカニズムの研究が進展した。肝硬変から肝細胞癌が発生する過程におけるエピゲノム変化、特に脱メチル化の意義はまだ不明であるが、パスウェイ解析により解明に向けての糸口がつかめた。
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今後の研究の推進方策 |
1.昨年度までの研究でp53欠損が肝細胞性腫瘍の表現型に与える影響(脱分化および分化転換)が明らかになったが、今年度はそのメカニズムを検討する。まず、肝細胞の脱分化に関連するとされるNestinの関与についてRT-PCRや免疫組織化学により調べる。 2.p53をノックアウトしたマウス初代肝細胞に種々の癌遺伝子をトランスポゾンシステムを用い導入して得られた肝癌細胞株を同系マウス肝に移植するモデルで、in vivoにおける腫瘍組織型を詳細に解析し、その分化メカニズムを検討する。特にMyc導入による脱分化や胆管方向への脱分化における上皮・間葉転換について詳細に調べる。さらにin vitroとin vivoにおける遺伝子発現を比較し、組織内微小環境が腫瘍の表現型に与える影響を明らかにする。 3.上記2の実験で、移植後に典型的な胆管癌を形成する細胞株を複数得ており、これらが胆管癌の前臨床試験モデルとして有効かどうかを検討する。 4.これまで我々は、マウス肝硬変から肝細胞癌が形成されるモデルにおいて、網羅的な遺伝子発現解析を行ってきた。本研究により同モデルにおいて、全エクソーム変異解析、遺伝子メチル化解析も実施した。今年度は、これらの膨大なデータを解析し、肝硬変から肝癌に至る分子メカニズムを解明する。これまでの結果では肝細胞癌においてこれまで報告されているドライバー遺伝子に変異は見出されないが、遺伝子脱メチル化とこれに伴う遺伝子発現変化が起こっていることが明らかになっており、詳細なパスウェイ解析を行っていく予定である。
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