研究課題
慢性炎症疾患として、慢性間質性肺炎に着目し、慢性間質性肺炎に合併する肺腫瘍を含む病理検体の解析を行っている。研究を遂行している研究代表者は間質性肺炎と肺腫瘍の両者を多数診断する施設に所属しており、多くの症例を解析することができる。その解析を通して、慢性間質性肺炎に合併する肺腫瘍では多彩な形態をとる組織像がみられることがわかっている。多彩な形態の原因は、発現する遺伝子のセットが異なることであるため、細胞分化に関わる遺伝子発現調節機構として、epigeneticな変化を司るリモデリング因子(epigenetic regulator)に着目して解析した。Epigeneticな変化を惹起するリモデリング因子としてメチル基を導入するEZH2と、その結果としてメチル基の入ったヒストンであるH3K27me3に着目した。その結果、気管支上皮にはH3K27me3が高頻度にみられ、それに対して未熟成分である気管支の基底側にある細胞ではEZH2が発現していた。EZH2とH3K27me3の正常細胞における発現パターンは異なっており、この傾向は腫瘍においてもみられた。この意義について解析しているところである。また、別のepigenetic regulatorであるSWI/SNF複合体のメンバーとして、ATPase活性をもっているSMARCA2, SMARCA4についても解析を進めた。腫瘍において、SMARCA2とSMARCA4は共発現している細胞もあるが、一部ではSMARCA2のみが発現している細胞があることを見出した。この意義についても現在解析しているところである。
2: おおむね順調に進展している
慢性炎症を基盤として発生する腫瘍では多彩な組織像があることが知られており、この根源を担う分子機構として、遺伝子発現制御について着目している。Epigenetic regulatorに着目して新たな知見を得ており、今後、慢性炎症によって惹起されるシグナルとこれらのregulatorの関係を詰めていけば、なぜ慢性炎症によって発生する腫瘍では多彩な組織がみられるのかを明らかにすることができると考えている。最初の計画どおりにほぼ進捗しており、順調に進展していると判断している。
Epigeneticな変化を惹起するリモデリング因子として、SWI/SNF複合体のメンバーについての発現を解析し、SMARCA2, SMARCA4の発現パターンと腫瘍の悪性度に相関があることを見出している。複合体を構成するメンバーの発現バランスの変化と腫瘍性変化に何らかの相関があることが示唆されており、この点について検討を進める。また、メチル基を導入する分子と、その結果としてメチル基が導入されたヒストンの発現パターンにも一定の逆相関があることを見出している。Epigenetic regulator自身の発現制御機構の解明につながることであり、この点についても解析を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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