研究課題/領域番号 |
19H03452
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森井 英一 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10283772)
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研究分担者 |
奥崎 大介 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任准教授(常勤) (00346131)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / 遺伝子発現 / クロマチン制御 / 腫瘍 |
研究実績の概要 |
慢性炎症疾患に合併する腫瘍性疾患として、慢性間質性肺炎合併肺腫瘍の解析を行っている。慢性間質性肺炎に合併する肺腫瘍では多彩な形態をとる組織像がみられ、この多彩な形態の原因は、発現する遺伝子のセットが異なることである。細胞分化に関わる遺伝子発現調節機構として、epigeneticな変化を司るリモデリング因子(epigenetic regulator)に着目して解析を進めた。Epigeneticな変化を惹起するリモデリング因子としてメチル基を導入するEZH2と、その結果としてメチル基の入ったヒストンであるH3K27me3に着目して解析した結果、気管支上皮の表層部分にはH3K27me3の発現が高頻度にみられ、それに対して未熟成分である気管支の基底側にある細胞ではEZH2が発現していた。EZH2とH3K27me3の正常細胞における発現パターンは異なっており、この傾向は腫瘍の一種である扁平上皮癌においてもみられた。肺癌にみられる多彩な組織亜型ごとにこの傾向が当てはまるか検討している。また、別のepigenetic regulatorであるSWI/SNF複合体のメンバーとして、ATPase活性をもっているSMARCA2, SMARCA4についても解析を進めた結果、腫瘍において、SMARCA2とSMARCA4の発現量比と悪性度に関連性があることを見出した。また種々の代謝物がepigenetic regulatorとしての役割を果たすことも明らかにし、ミトコンドリア機能も関連することを見出した。具体的には、プリン代謝経路に関連する代謝副産物であるフマル酸が遺伝子発現に関与すること、またセリンラセマーゼがピルビン酸合成を介してアセチルCoA量を増やし、ヒストンアセチル化を増加させることも明らかにした、この時、ミトコンドリア量が増えていることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性炎症を基盤として発生する腫瘍の特性について検討し、多彩な組織像を構築する裏にはクロマチン制御因子があること、さまざまな代謝産物がクロマチン制御の機能をもつこと、さらに細胞内小器官であるミトコンドリアがこの制御に関与することを明らかにした。研究を開始した時には、代謝産物とクロマチン制御が関連することは予想できていなかったことで、さらに本来はエネルギー産生器官であるミトコンドリアが遺伝子発現制御にも機能するということも本研究を実施しなければわからなかったことである。これらの成果を論文化することができており、本研究はおおむね順調に進展していると判断している。さらに現在、オルガノイドの作製という新規技術を導入しており、慢性炎症による細胞分化系譜の乱れを証明するべく研究を進めている。新規技術によりさらなる研究発展を図っている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に研究を進めており、慢性炎症による細胞分化系譜の乱れを今後詳細に検討する予定である。このため、新規技術であるオルガノイドによる解析系の導入を図っている。慢性間質性肺炎を研究対象としているため、ヒト肺由来オルガノイドを作製している。通常の培養条件では気管支由来オルガノイドは比較的容易に得ることができることがわかったが、さらに培養条件を検討することで、肺胞由来オルガノイドを作製することが可能となりつつある。慢性炎症による分化の乱れを明らかにする予定である。さらに、これまでクロマチン制御因子としてEZH2とH3K27me3の発現パターンを肺扁平上皮癌において明らかにしているが、扁平上皮癌よりも多くみられる腫瘍である肺腺癌でもこのパターンを明らかにする予定である。肺腺癌には多くのサブタイプがあるが、サブタイプ間で何らかのパターンに差異があるかどうかも解析する予定である。
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