セントラルドグマにおいて単にタンパク質の鋳型と考えられてきたmRNAは、転写後レベルの制御を受けるだけでなく、他のmRNAを制御することが明かされつつある。腸内細菌科細菌で見出されたmRNAの3´UTRから生成するsmall RNA (sRNA) は、従来型のsRNAと同様に遺伝子発現を調節する機能を持つ新しいタイプの制御因子である。mRNAの3´UTRから派生するsRNAは少なくとも大腸菌やサルモネラにおいて30種類以上存在するが、未だ数例しかその機能は実証されていない。本研究 ではmRNAの3’UTRから派生するsRNAの機能を体系的に解析し、原核生物mRNAの3´UTRを介した制御ネットワークを明らかにすることを目的とする。さらに、3´UTRにおける変異の蓄積によってRNA制御ネットワークがどのように腸内細菌科の中で進化してきたのかを実験的に解明する。 現在解析を進めているグルタミン合成酵素遺伝子glnAはサルモネラの病原性発現に重要であることが知られている。今年度、サルモネラのglnA mRNAの3’UTRはRNase Eによって2種類のsRNA GlnZ1とGlnZ2をプロセシングし、同様に大腸菌K12株のglnA mRNAは単一のsRNA GlnZをプロセシングすることが明らかになった。サルモネラGlnZ1および大腸菌GlnZの標的遺伝子をサルモネラおよび大腸菌におけるRNA-seq解析の結果を利用して探索した。GFP翻訳融合体の蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダーを用いて定量解析し、標的遺伝子が実際に転写後調節を受けるか実験的に検証を行った。RNase Eの野生株もしくは温度感受株を比較したところ、GlnZによる標的遺伝子の転写後調節にはRNase Eによるプロセシングが必要であることが示唆された。以上の研究成果を2022年11月にeLifeに論文発表した。
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