研究課題
本研究は、腸管におけるCandida albicansを含む真菌の定着に対する腸内細菌の阻害効果について、微生物同士の相互作用ならびに微生物と宿主の相互作用に着目し、研究を展開している。令和二年度には、申請者が同定したC. albicansの定着を抑制する腸内細菌に焦点を当て、in vitroにおいてC. albicansの増殖を抑制する可能性および阻害機構について検証を試みた。まず、申請者が分離した細菌とC. albicansを共培養したところ、C. albicansの増殖が完全に抑えられた。さらに、腸内細菌を培養して得られた培養上清を用いてC. albicansを培養したところ、培養上清中にC. albicansの増殖を抑制する物質が含まれることを見出した。さらに、この培養上清を様々な有機溶媒で分液処理したところ、水相にC. albicansの増殖を抑制する物質が含まれていた。さらに、この培養上清をProK処理することで、C. albicansの増殖抑制効果が消失した。以上の結果から、C. albicansの増殖を抑制する物質は、水溶性のたんぱく質である可能性が示唆される。一方、宿主免疫細胞がC.albicansの腸管定着を阻害する可能性について研究を進めたところリンパ球、特に特定のT細胞サブセットを欠損したマウスにおいて、C.albicansが腸管の管腔に定着することを見出した。以上の結果から、腸管における真菌の定着を阻害する機構として、腸内細菌が産生する真菌増殖抑制物質や、宿主免疫細胞を介した機構の存在が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和二年度は、主に特定の腸内細菌によるC. albicansの増殖を抑制する機構について研究を進めた。その結果、1) in vitroにおいて、特定の腸内細菌とC. albicansを共培養することで、C. albicansの増殖が抑えられた。2) 腸内細菌の培養上清中に、C.albicansの増殖を抑える因子が含まれることを見出した。3) 腸内細菌の培養上清をProK処理することで、C.albicans増殖抑制効果が消失した。4) 有機溶媒を用いて分液処理したところ、水相においてC.albicans増殖抑制効果が観察された。以上の結果から、特定の腸内細菌がC.albicansの増殖を抑制する水溶性のたんぱく質を分泌している可能性が示唆される。現在、有機溶媒分液後のサンプルを限外濾過やカラムクロマトグラフィーなどを用いて、さらに分画化を進めている。また、特定の腸内細菌をC. albicansノトバイオートマウスに経口投与したところ、腸管において定着していたC. albicansの数が大きく減少したことから、in vivoにおいて特定の腸内細菌がC. albicansの腸管定着を阻害することが示された。一方、免疫細胞の欠損マウスもしくは免疫細胞除去マウスを用いた解析から、腸内細菌にくわえて特定のリンパ球、特にT細胞サブセットのうちで、C.albicansの腸管定着を阻害するものを同定している。以上のように、本年度計画していた実験は全て実行し、重要な研究成果をあげることができた。これまでに得られた研究成果から、最終年度の研究計画の立案が可能であり、特に研究内容の変更も必要ないと考えられる。以上のことから、おおむね順調に研究が進行していると考えられる。
昨年度の研究から、C. albicansの増殖を阻害する腸内細菌由来因子について、分泌型のたんぱく質である可能性が示唆されている。今後は、この分泌型因子の同定を目指し、限外濾過やカラムクロマトグラフィーを用いて分離を進め、高速クロマトグラフィーおよび質量分析器を用いて、C. albicansの増殖阻害物質の同定を試みる。また、in vivoにおいて、C. albicansの増殖を阻害する腸内細菌を定着させたノトバイオートマウスにC. albicansを経口投与し、特定の腸内細菌がC. albicansの腸管定着を予防できる可能性を検証する。さらに、C. albicans腸管定着を阻害する宿主免疫細胞の同定を目指す。これまでに、特定の免疫細胞、特にT細胞サブセットがC. albicansの腸管定着を阻害することを見出した。本年度は、T細胞サブセットが産生するサイトカインや、分泌型分子がC. albicansの”colonization resistance”効果に寄与する可能性を検証する。また、T細胞分化に必要とされている、二次リンパ組織の関与についても検証を試みる。さらに、C. albicansの腸管定着を阻害する腸内細菌によって、特定のT細胞サブセットの誘導についても確認し、腸内細菌が宿主免疫細胞を介してC. albicnasの腸管定着を阻害するか確認する。
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