研究課題
高速原子間力顕微鏡を用い、プリオンタンパク質の一分子観測を行った。天然状態のプリオンタンパク質(91-231)では、単量体のプリオンタンパク質は、一様にオタマジャクシの形状をしており、天然変性のN端部分と構造形成したC端部分とを明確に区別することができた。これは、これまでのNMRスペクトル解析によるプリオンタンパク質構造解析結果と一致している。また、超音波照射により、プリオンタンパク質は凝集・異常化するが、様々の条件において、その凝集体の形状を観測した。その結果、凝集体は基本的に球状であり、天然変性部分は巨大化した球状体の内部に取り込まれていた。そのサイズは100量体以上のものが多く、これまでに発表された異常プリオンのサイズとおおむね一致している。しかし、これまでに発表された異常プリオンの予測構造は、線維状またはアミロイド状構造のものがほとんどであり、我々のAFMによる実験結果と基本的に合わなかった。しかし、線維状のプリオンが感染性プリオンである、という証明はこれまで報告されていない。すなわち、感染性プリオン形状は、我々が観測した球状である可能性がある。また、プリオンタンパク質は、αシヌクレインと相互作用し、プリオンの凝集を抑制することが分かっているが、我々は、αシヌクレイン一分子の形状解析にも成功した。今後、プリオン分子とαシヌクレインとの相互作用を解析しているところである。さらに、異常プリオンは、細胞表面のラフト内で生成されることがわかっている。このため感染性プリオンの真の形状を観測するため、我々は細胞を観測することが可能な、超広域型スキャナーを導入し、ラフト表面におけるプリオンの凝集体観測実験を実施しているところである。
2: おおむね順調に進展している
高速原子間力顕微鏡(AFM)を用い、プリオンタンパク質一分子の形状を直接観測することに成功した。また集合体の形状観測、抑制分子(αシヌクレイン)の1分子観測に成功した。さらに超音波で生成したプリオン凝集体は球状であり、これまでの報告とは異なることを一分子レベルで確認した。その上で、細胞表面のラフトにおける、異常型生成をAFMを用いて観測し、真の感染型構造を突き止める、という新たな方向性を見出すことができたため。
培養細胞を用い、細胞表面上でのプリオンの形状、形状の変化、異常型と接触した時の形状変化を観測する。その際、プリオン分子と他の分子を区別するために、蛍光を同時観測する。そのための蛍光観測ユニットを、本年度新たに導入する。これにより、最終目標であるプリオン感染性構造の決定を推進する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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