高速原子間力顕微鏡を用いた、プリオン異常型構造の解析を進めた。超音波(PMCA)により、正常型プリオン構造を破壊し、異常型を作成した。当該方法では、感染性は証明されないものの、モノマー(単量体)からヘキサマー(六量体)に至る、多彩なオリゴマーの形成が観測された。モノマーは、オタマジャクシのように頭部(C端)と尾部(N端)から形成されていた。この構造は、NMR構造、及びX線回折構造と一致した。これら、モノマーは、尾部で相互作用し、より大きなオリゴマーに成長する過程を捉えることに成功した。また、最終的に形成されたヘキサマーは、より大きな頭部と尾部からなる構造であった。 このように、頭部と尾部からなるオタマジャクシ構造の病理学的な意味は現時点では不明であるが、プリオン蛋白質が相互作用する時の基本構造であり、尾部を通じて、蛋白質間相互作用のネットワークを作るものと考えられた。 今後、明確な感染性を有するプリオン分子の構造解析を注意深く進める必要があると考えられるが、オリゴマーが多彩な構造を有することを考えると、感染性分子も構造は必ずしもユニークではなく、多彩な構造を有する可能性があるだろう。 高速原子間力顕微鏡では、NMRやX線結晶構造解析とは異なり、立体構造がユニークでなく、多彩な立体構造が分布していても、一つ一つの分子の立体構造を直接観測することが出来る。また、電子顕微鏡とは異なり、水和した自然な立体構造を観測でき、ミリ秒のオーダーでダイナミクスや揺らぎ、分子間相互作用をリアルタイムで観測出来る。高速原子間力顕微鏡は、プリオンに限らず、様々の蛋白質異常構造の解析に、非常に有用である、と考えられる。
|