研究課題/領域番号 |
19H03479
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松浦 善治 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (50157252)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | HCV / SPP / MHC / C型肝炎ウイルス / 蛋白質分解 / 小胞体品質管理機 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、C型肝炎ウイルス(HCV)のコアタンパク質の成熟化に必須の宿主因子であるSignal peptide peptidase (SPP)に着目し、SPPの活性を阻害した場合に誘導される小胞体の品質管理機構について性状解析を行ってきた。SPPの抑制時に、未成熟なHCVコアタンパク質は、E3ユビキチンライゲースのTRC8を介した小胞体品質管理機構により分解されることを報告している。このため、SPPの基質として報告のある宿主側の因子について、SPP阻害時に発現が抑制されるか検討を行い、昨年度はSPPの欠損細胞においてHCVコアタンパク質と同様に発現が抑制される因子として、MHCクラスI分子を同定している。本年度は、SPP欠損時のMHCクラスI分子の発現抑制が、小胞体品質管理機構を介したタンパク質分解によるものか検討を行った。SPP欠損細胞にMHCクラスI分子を発現させ、翻訳阻害剤の処理下で発現を確認したところ、MHCクラスI分子の発現が経時的に抑制されることを確認した。さらに分解経路に関与する因子について検討を行った結果、MHCクラスI分子の分解には、小胞体に局在するE3ユビキチンライゲースのHRD1が必須であることを明らかにした。さらに、SPPとMHCクラスI分子の相互作用は、コアタンパク質を発現させることで抑制され、SPPをコアタンパク質の相互作用に置き換わることを見出し、培養細胞にコアタンパク質を発現させることにより、SPP欠損細胞と同様にMHCクラスI分子の分解が誘導されることを見出した。また、コアタンパク質によるMHCクラスI分子の分解もHRD1に依存的であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、SPPの抑制時やコアタンパク質の発現時に誘導されるMHCクラスI分子の発現抑制について分子生物学的な解析を行ない、MHCクラスI分子の発現抑制が、小胞体における分解機構によるものであることを明らかにした。さらに、この品質管理機構における主要な因子としてHRD1を同定した。これらの実験の進捗により、HCVによるMHCクラスI分子の分解を介した免疫回避について、新規の分子メカニズムを明らかにした。このため、研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、HCVの免疫回避の分子メカニズムとして、コアタンパク質がSPPを介してMHCクラスI分子の発現抑制を誘導していることを明らかにした。コアタンパク質の存在下では、MHCクラスI分子はHRD1を介した小胞体品質管理機構により分解が誘導された。ウイルス感染により小胞体品質管理機構が改変される現象は、これまで様々なウイルスで報告されている。特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)では、ウイルスタンパク質のUS2により、SPPを介した小胞体品質管理機構でMHCクラスI分子の分解が誘導されることがこれまでに示唆されている。進化的に関連の無いHCVとHCMVの間で、免疫回避のために同一の宿主因子が標的となっていることから、SPPの関連するMHCクラスI分子の成熟及び分解は、ウイルスの免疫回避に広い役割を担っていることが考えられる。しかし、HCVコアタンパク質の分解経路がHRD1に依存する一方、US2によるMHCクラスI分子の分解は別のユビキチンリガーゼであるTRC8に依存することが示唆されている。このため、HCVとHCMVは共通してSPPを標的とする一方、改変する小胞体品質管理機構は異なっていることが考えられる。また、US2依存的なMHCクラスI分子の分解におけるSPPの詳しい役割も明らかではない。このため、これまで詳細を明らかにしたHCVコアタンパク質によるMHCクラスIの分解経路とHCMVによる経路の比較解析を行い、ウイルス感染症におけるSPPの広範な役割について知見を得る。また、HCV感染後の肝がんではSPPの発現が上昇する結果を得ている。SPPの基質にはがんとの関連が示唆される因子もあることから、これらの因子のHCV感染時や肝がんでの動態を検討することで、HCVコアタンパク質によるHCVの病態とSPPの間の分子メカニズムを明らかにする。
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