研究課題/領域番号 |
19H03480
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
押海 裕之 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (50379103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自然免疫 / ウイルス / インターフェロン / RIG-I |
研究実績の概要 |
自然免疫はウイルス感染初期の生体防御に必須の役割を果たす。特に強い抗ウイルス作用を示すI型インターフェロンの産生は重要である。一方で、過剰な自然免疫応答は自己免疫疾患の発症につながることが指摘されており、その抑制も重要である。我々はウイルス感染時の自然免疫応答の分子機構の解明に取り組み、細胞質内でウイルス由来のRNAを認識するRIG-I分子と結合する新たな因子としてZNF598分子を同定した。ZNF598はRIG-I依存的なI型インターフェロンやその他の炎症性サイトカインやケモカインの産生も抑制することをマイクロアレイ法やRT-qPCR法などにより明らかとした。 ZNF598分子がRIG-I依存的な自然免疫応答を抑制するメカニズムについて調べたところ、ZNF598分子はRIG-Iとユビキチン様タンパク質であるFAT10との結合を促進する作用をしめした。また、このFAT10がRIG-Iに結合することでRIG-IのK63鎖を介したポリユビキチン化が阻害されることが示された。RIG-IのK63鎖を介したポリユビキチン化はRIG-Iの活性化に必須である。またZNF598によるRIG-Iの抑制効果はFAT10遺伝子をノックアウトした場合には観察されないことが二重変異株の解析から示された。これらの結果は、ZNF598がFAT10をRIG-Iに結合させることでRIG-Iのポリユビキチン化を阻害し、自然免疫応答を抑制することを示唆する。RIG-Iの過剰な活性化は自己免疫疾患の発症につながることが知られており、ZNF598はこのような過剰なRIG-Iの活性化を抑制する働きをすると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウイルス感染に対する自然免疫応答の解明として、ZNF598と呼ばれる新たな因子を同定し、これがRIG-I依存的な自然免疫応答を抑制する分子メカニズムを解明した。その成果はCell Reports誌に責任著者として論文発表したことから順調に成果を挙げていると判断される。 これに加えて、別の自然免疫応答に関与する新たな因子のノックアウトマウスの作成と繁殖を既に終え、実験を開始しており、実験全体として当初の計画通り概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
RIG-Iは様々なウイルスを認識することが知られており、これまでにA型インフルエンザウイルスやB型インフルエンザウイルス、センダイウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスなどがRIG-Iにより認識され自然免疫応答が誘導される。しかし、現在流行中の新型コロナウイルスがRIG-I依存的に認識され自然免疫応答が誘導されるのか、あるいは、その際にRiplet分子によるRIG-Iのユビキチン化が必須の役割を果たすのかは全くわかっていない。そこで、RIG-Iの翻訳後修飾としてのK63鎖ポリユビキチン化が新型コロナウイルス感染時のI型インターフェロンやその他の炎症性サイトカインの産生に必須の役割をはたすのかどうかについて詳細に調べる。 RIG-I様受容体としてしられているMDA5やLGP2も翻訳後修飾を受けることが知られている。これらの分子の翻訳後修飾がどのような影響を与えているのかについては十分に解明されておらず、今後、これらのRIG-I様受容体の翻訳後修飾の生理学的意義についても詳細に調べる。
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