研究課題/領域番号 |
19H03481
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
|
研究分担者 |
博多 義之 近畿大学, 医学部, 講師 (30344500)
塚本 徹雄 近畿大学, 医学部, 助教 (80750223)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | APOBEC3 / レトロウイルス / 宿主因子 / 中和抗体 / Bリンパ球 / 胚中心 / 骨髄 |
研究実績の概要 |
ウイルス中和抗体産生制御機構の解明は、新型コロナウイルス感染症を含む感染症のワクチン開発に必須である。我々と米国のSantiagoらは、マウスレトロウイルス感染時に中和抗体産生を制御する宿主遺伝子を同定する過程で、独立かつ同時にAPOBEC3の系統間多型を発見した。APOBEC3はレトロウイルス複製過程を直接制限し、C57BL/6(B6)系統の持つ対立遺伝子の産物は、感染及び発病に対する強い抵抗性を賦与する。しかし、細胞質内に発現し、粒子内に取り込まれて感染標的細胞でウイルス複製過程を阻害するAPOBEC3が、中和抗体産生制御因子として機能するしくみは明らかでない。 本研究では、①APOBEC3はBリンパ球核内に局在し、免疫グロブリン遺伝子可変部の体細胞高頻度突然変異を誘導する; ②APOBEC3は、ウイルス抗原特異的Bリンパ球を感染による細胞傷害から保護する; ③ウイルス中和抗体産生制御遺伝子はAPOBEC3と連鎖する別の遺伝子であり、コンジェニックマウスの退交配により新たに同定可能である、という3つの仮説を検証している。 我々は2020年度までに、APOBEC3分子N-末端にin-frameでFLAGタグをノックインしたB6マウス系統を複数樹立、発現量の高いホモ接合個体を得た。2020年度はこれらを用いて、全身各組織におけるAPOBEC3分子の生理的発現を免疫組織化学及び蛍光セルソーターで解析し、骨髄ではBリンパ球前駆細胞の一部に、また脾臓やパイエル板など二次リンパ組織では胚中心細胞に、APOBEC3タンパク質の発現が高いことを見出した。また、驚くべきことに小腸粘膜の上皮細胞で細胞質にAPOBEC3分子の強い発現を認めたが、核での有意な発現は観察されなかった。抗原刺激を行ったマウス脾臓の観察でも、APOBEC3タンパク質の発現は胚中心細胞に限局することが観察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、2020年度中にFALGタグノックインマウス系統を確立し、全身リンパ組織におけるAPOBEC3タンパク質の発現分布を免疫組織学的に解析することになっていたが、これは2020年度順調に進行し、骨髄や胸腺などの一次リンパ組織と、脾臓やパイエル板など二次リンパ組織におけるAPOBEC3タンパク質発現の細胞分布が明らかになった。これにより、リンパ系組織では胚中心細胞で特にAPOBEC3の発現が高いことがわかり、今後の研究計画が絞り込まれた。また、大変意外なことに、小腸の粘膜上皮細胞でAPOBEC3タンパク質の発現が高いことが認められたが、この場合APOBEC3は細胞質に局在し、核への局在は無いことが明らかだった。 レトロウイルス感染細胞でのAPOBEC3発現局在とその感染による変化を解析していくため、既にドイツ・デュースブルク=エッセン大学ウイルス研究所のWibke Bayer博士より、蛍光タンパク質を発現するフレンドウイルス複合体の供与を受け、試験管内でのウイルス複製と蛍光発現の確認を進めている。また、APOBEC3がそのシチジンデアミナーゼ活性を介して免疫グロブリン遺伝子可変部の体細胞高頻度突然変異に関与する可能性について検証するため、イリノイ大学シカゴ校のSusan Ross教授より、デアミナーゼ活性を失わせたAPOBEC3分子を発現するマウス系統の供与を受け、交配維持を開始している。さらに、二次リンパ組織におけるAPOBEC3タンパク質発現の抗原刺激による変化を解析するため、ヒツジ赤血球を投与したマウスにおける胚中心出現経過の予備的検討も終わっている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は、既に確立したAPOBEC3-FLAGノックインマウス系統と、蛍光標識マウスレトロウイルスを用いて、以下の解析を進める: 1)FLAG標識APOBEC3発現マウスにヒツジ赤血球を投与し、経時的に脾臓を摘出して、胚中心形成過程におけるAPOBEC3タンパク質の発現経過と局在を免疫組織化学的に解析する。(宮澤、博多、大学院学生) 2)FALG標識APOBEC3発現B6マウスに、蛍光タンパク質発現フレンドウイルス複合体を高い感染価で接種する。時間経過を追って骨髄と脾臓を採取し、多色蛍光セルソーター解析により、フレンドウイルス感染に伴うAPOBEC3発現量と細胞分布の変化を追うと共に、特に感染Bリンパ球においてAPOBEC3の発現量と細胞内局在が変わる可能性を検討する。(宮澤、塚本、大学院学生) 3)APOBEC3が免疫グロブリン可変部の高頻度突然変異に関与するなら、デアミナーゼ活性が必須の筈である。そこで、デアミナーゼ活性欠損APOBEC3を発現するB6マウスにフレンドウイルスを感染させ、経時的に血清を採取してウイルス中和抗体価を測定する。(宮澤、博多、大学院学生) 4)消化管粘膜上皮におけるAPOBEC3発現が中和抗体産生に影響を及ぼす可能性を検証するため、Bリンパ球、CD4陽性T細胞、またはCD8陽性T細胞欠損マウスとFLAG標識APOBEC3発現マウスを交配し、これらリンパ球欠損下で粘膜上皮におけるAPOBEC3発現がどのように変化するかを免疫組織化学的に調べる。また、抗生物質投与により無菌化したノックインマウスにおける標識APOBEC3発現の変化を、生化学的及び免疫組織化学的に検討する。 5)これまでの研究成果を英文学術論文として公表する。
|