研究課題
シチジン脱アミノ化酵素APOBEC3Hのユニークな核酸結合様式と生化学的な特性を比較解析することにより、APOBEC3Hの抗ウイルス作用および細胞内制御の分子機序を明らかにすることを目的としている。本年度は、1)APOBEC3Hの抗ウイルス効果の評価、2)異なる細胞内局在を決定する要因の探索を行った。まず、哺乳類(32種)由来のAPOBEC3HのHIV-1、HIV-2、SIVmac、SIVagm、およびMuLVに対する抗ウイルス効果と粒子への取り込み効果を網羅的に解析した。その結果、dsRNAへの結合能を有するCercopithecidaeおよびHominoidea由来のAPOBEC3Hが強い抗ウイルス効果を示していたが、dsRNAへの結合能とウイルス粒子への取込み効率には有意な相関性がなかった。さらに、これらの抗ウイルス効果の差異は酵素活性欠失型APOBEC3Hにおいても認められた。そのため、APOBEC3Hによる強力な抗ウイルス作用は、APOBEC3Hのユニークな核酸結合能(A form RNAやDNA/RNA duplexに高親和性をもつ)に起因し、逆転写伸長反応の抑制(Road blockメカニズム)する分子機序を支持した。次に、細胞内局在および安定性に関与する要因として、APOBEC3HにおけるC末側にあるアミノ酸配列モチーフも関与することを見出した。このモチーフ配列の保存性は種間に依存し、変異導入により局在・安定性の表現系が変化することが明らかとなった。以上の結果から、APOBEC3Hの細胞内安定化・機能制御の新たな分子機序が存在し、未同定な細胞因子を介した抗レトロウイルス機能制御のしくみが存在することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
哺乳類由来の32種のAPOBEC3Hの抗ウイルス作用、ウイルス粒子への取込み、および核酸結合特性に関する比較パネルが完成し、APOBEC3Hによる抗ウイルス効果がdsRNAへの結合特性に強く相関していることが明らかになった。また、APOBEC3Hの細胞内局在・安定性を決定する新たなシグナル配列が特定され、新たな制御機序が展開できることが期待される。2020年度には全体的な研究交流や研究環境が停滞した面があったことを否めないが、それに反して上述の知見を見出すことができたため、総じておおむね順調に進展していると判断した。
APOBEC3Hの細胞内局在・安定性に寄与する新たな配列モチーフに結合する細胞内因子を同定することにより、APOBEC3Hの細胞内における機能制御を解明する糸口とする。さらに、HIV感染・非感染細胞内においてAPOBEC3Hが結合するdsRNA断片を次世代シーケンシング技術により網羅的に検索することにより、dsRNAとの結合による局在変化・安定化機序も考察する。統合的に、モチーフおよびdsRNAの両者による細胞内制御の全容を明らかにしたい。APOBEC3Hによる細胞内抗レトロウイルス複合体の制御機序とウイルス特異性のしくみ、想定される他の細胞生物学的な意義などについて考察する予定である。
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