研究課題
免疫機構は、獲得免疫と自然免疫の協調作用として、様々な炎症反応を制御する。獲得免疫は、T細胞、B細胞が抗原を認識することにより特異的な反応が惹起される。獲得免疫と自然免疫の一番の違いは、遺伝子再構成により抗原特異的な受容体(T細胞受容体(TCR)、抗体分子(Ab))を形成することである。つまり、この二つの遺伝子再構成を司るRag1/Rag2の発現が、獲得免疫の始まりである。本研究課題では、このRag1/Rag2遺伝子の発現制御を解明することで、造血幹細胞から獲得免疫リンパ球への分化の成り立ちを明らかにし、獲得免疫成立の本体に迫ることを目的とする。2020年度までに、T細胞、B細胞それぞれに特異的なRag1/Rag2遺伝子のエンハンサー領域を同定し、その領域の欠損マウスを作製した。結果として、T細胞エンハンサー(R-TEn)はT細胞でのみ機能し、B細胞エンハンサー(R1B, R2B)はB細胞でだけ機能し、それぞれの欠損は、Rag1/Rag2の遺伝子発現低下によるT細胞受容体または抗体遺伝子の遺伝子再構成の障害を起こし、リンパ球の分化障害、そして免疫不全症を呈した。興味深いことは、このエンハンサー領域にある転写因子E2Aの結合配列(E-box)の変異によって、エンハンサー機能が障害され、さらにはRag遺伝子座の3次元ゲノム構造が消失していた。このことは、Rag1/2エンハンサーへのE2Aの結合が最も重要なイベントであることを示している。この内容は2020年にScience Immunology誌に発表することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
2020年度は、これまでの研究成果を免疫学のトップジャーナルであるScience Immunology誌に発表することができ、進捗状況としては非常に順調であると言える。現在、さらに新たな変異マウス、およびRag遺伝子のアンカー領域の同定に成功し、その領域の欠損マウスも作製しており、結果が期待される。またRag1/2エンハンサー領域だけでなく、Rag1プロモーター領域の解析を進めており、次の結果も期待される。
これまでの研究結果から、Rag1プルモーター近傍へのE2Aの結合は、T, B細胞に共通しており、この領域のE-boxの変異マウスの解析から、T, B細胞共にRag1の発現が消失してしまい、T, B細胞の分化がpro-T, pro-B細胞で停止してしまうことを見出した。このことは、Rag1発現が完全にE2Aの結合に依存していることを表せているが、しかし、この領域にE2Aが結合することがどういうことを引き起こすのか、その詳細は全く明らかでない。現在、この領域の分子機構の解明を試み、さらなる研究の発展が期待される。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Science Immunology,
巻: 5 ページ: 1-15
10.1126/sciimmunol.abb1455.