新しいがん抗原タイプの発見とその産生メカニズム解明はがん免疫治療発展に直結する重要な課題である。我々はプロテオゲノミクスHLAリガンドーム解析法を用い、大腸がん細胞・組織HLAにナチュラル提示されるlong non-coding RNA(lncRNA)由来がん抗原ペプチドを同定し、その抗原性およびがん特異性を確認した。驚くべきことに、大腸がん組織HLAリガンドームのおよそ5%が既知プロテオームには登録のないペプチド配列であった。lncRNAがん抗原タンパク片は分解により検出できないものの、HLA結合するlncRNAペプチド配列は保護され細胞表面に提示されると考えられる。さらにがん組織と正常組織を定量比較したプロテオゲノミクスHLAリガンドーム解析により、がん特異的に発現し抗原性を有する新規がん抗原候補ペプチドを同定した。CAGE、Iso-seqを実施し、同lncRNA由来がん抗原ペプチドをコードしているlncRNAトランスクリプトバリアントを同定した。遺伝子過剰発現とノックダウン実験により、同ペプチドがlncRNA由来であること、およびT細胞応答がlncRNA発現量に依存することを証明できた。即ち、lncRNA翻訳が生じており、翻訳産物由来ペプチドががん細胞HLAに提示されている。同lncRNAに特異的反応するT細胞クローンを樹立し、がん細胞NMD阻害によるlncRNAがん抗原のHLA提示およびT細胞反応変化を確認した。これまでのデータはlncRNA翻訳とNonsense Mediated Decay(NMD)およびHLA抗原提示の関連性を示唆している。これらの研究成果は、lncRNAがん抗原を標的とした新しいがん免疫治療の開発、およびそのNMD制御によるHLA提示・免疫応答のコントロールが可能となりうることを示唆している。
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