研究課題
腫瘍微小環境におけるがん細胞はmTOR非依存的なアミノ酸感知・適応機構を介しがん悪性化を促進するという研究仮説をもとに、申請者が持つ1アミノ酸を添加した独自の低栄養培養系を駆使して、繊維芽細胞などの正常細胞とがん(HeLa, PANC1)細胞の比較から1アミノ酸に起因する系統的な遺伝子発現解析、ヒストン修飾解析やメタボロ・プロテオーム解析を実現する。具体的には、本年度は、以下の項目を検討した。(1)アミノ酸欠乏感知機構の解明:本研究は、独自の低栄養培地に各アミノ酸のみを添加した培地を作成し15種類の各アミノ酸存在下で、がん細胞(HeLa細胞)を24時間培養し、各アミノ酸で特異的に発現誘導される遺伝子群を同定し、パスウェイ解析を用いて各アミノ酸における標的遺伝子群を同定した。また、申請者はグルタミンで誘導され、ロイシンやその他のアミノ酸では変動しない遺伝子群を見出した。また、各種アミノ酸で特異的なヒストン修飾情報(H3K4me3, H3K27ac)を取得し、プロモーター、エンハンサーの同定、クロマチン相互作用のデータとの統合解析から、パスウェイ解析で得られなかった上流制御因子として複数の転写因子を同定した。また、申請者は、グルタミン標的遺伝子群、グルタミン標的エンハンサー、グルタミンで変動するクロマチン相互作用の解析から感知・制御因子候補を同定し、現在それら候補因子の機能解析を行っている。また、1アミノ酸添付培地実験の補完実験として、通常培地から1アミノ酸のみを抜いた培地を用いて検討をした。今後は、安定同位体ラベルアミノ酸を用いてメタボローム解析をすることで、1アミノ酸に起因する代謝を多角的に検討する。また、可能であれば、細胞小器官を単離しメタボロ・プロテオーム実験を行い、細胞全体では検出できない代謝変動を捉える。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、研究項目1「アミノ酸欠乏感知機構の解明」において、(1)各アミノ酸で特異的に発現誘導される遺伝子群を同定し、パスウェイ解析を用いて各アミノ酸における標的遺伝子群を同定した。(2)申請者はグルタミンで誘導され、ロイシンやその他のアミノ酸では変動しない遺伝子群を見出した。(3)各アミノ酸で特異的なヒストン修飾情報(H3K4me3, H3K27ac)を取得し、プロモーター、エンハンサーの同定、クロマチン相互作用のデータとの統合解析から、パスウェイ解析で得られなかった上流制御因子として複数の転写因子を同定した。(4)また、申請者は、グルタミン標的遺伝子群、グルタミン標的エンハンサー、グルタミンで変動するクロマチン相互作用の解析から制御因子候補を同定し、現在それら候補因子の機能解析を行っている。(5)1アミノ酸添付培地実験の補完実験として、通常培地から1アミノ酸のみを抜いた培地を用いて検討をした。という結果から、本研究は概ね順調に進展している。今後は、安定同位体ラベルアミノ酸を用いてメタボローム解析をすることで、1アミノ酸に起因する代謝を多角的に検討する。また、可能であれば、細胞小器官を単離しメタボロ・プロテオーム実験を行い、細胞全体では検出できない代謝変動を捉える予定である。
上述のように本研究は、順調に進展していることから、令和2年度は当初の計画通り以下の研究を推進する。腫瘍微小環境におけるがん細胞はmTOR非依存的なアミノ酸感知・適応機構を介しがん悪性化を促進するという研究仮説をもとに、申請者が持つ1アミノ酸を添加した独自の低栄養培養系を駆使して、繊維芽細胞などの正常細胞とがん(HeLa, PANC1)細胞の比較から1アミノ酸に起因する系統的な遺伝子発現解析、ヒストン修飾解析やメタボロ・プロテオーム解析を実現する。具体的には、本年度は、昨年度に引き続き、上述の項目(1)を検討するとともに、新たに項目(2)についても検討する。(2)アミノ酸欠乏に対する細胞適応機構の解析正常細胞はロイシンなどのアミノ酸欠乏に対する適応機構として、オートファジーを介した細胞生存戦略のメカニズムを有する。また、がん(HeLa)細胞は恒常的にオートファジーが活性化されていることも知られている。ロイシン欠乏は、細胞膜リン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)を膜成分とするオートファゴソームの形成を促進しオートファジーを活性化することが知られている。一方、申請者は、グルタミン欠乏が、PCYT2を低下しPE合成を抑制し、オートファジーを抑制することを見出した。がん細胞にはロイシン欠乏と異なりグルタミン欠乏に対する適応機構が存在することが示唆される。本研究では、様々ながん細胞を用いてアミノ酸欠乏に対する適応機構をオートファジー活性化やmTOR阻害剤の存在下で検討しmTOR非依存的な1アミノ酸由来の適応機構をメタボロ・プロテオーム解析で同定する。また、1アミノ酸添付培地実験の補完実験として、通常培地から1アミノ酸のみを抜いた培地を使用し検討し、細胞小器官レベルでの解析にも挑戦する。
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