研究課題
HGF(Hepatocyte Growth Factor)によるMET受容体の活性化はがん転移の促進、がんの薬剤耐性獲得、がん幹細胞の浸潤性成長に関与する。HGFはMET活性化能のない前駆体single-chain HGF(scHGF)として正常組織に広く分布・存在する一方、がん細胞表面近傍でtwo-chain HGF(tcHGF)に変換される。したがって、がん微小環境におけるtcHGFの生成はがん転移のニッチ形成や薬剤耐性獲得のカギとなり、tcHGFの特異的な検出や阻害はがんの診断・治療につながると考えられる。しかしながら、tcHGFを選択的かつ高感度に認識する有用な分子は取得されていなかった。私たちは標的分子に対して高い親和性で結合する特殊環状ペプチドを高効率に取得するRaPID(Random Peptide Integrative Discovery)システム(東京大学 菅裕明博士らが確立)を用いて、HGFを阻害する環状ペプチドであるHGF-inhibitory Peptide-8(HiP-8)を取得した。今年度、(1)HiP-8はscHGFには結合せず、tcHGFに特異的に高親和性結合するとともに、tcHGFのMET受容体への結合、すなわちtcHGFによるMET受容体活性化を阻害すること、(2)高速原子間力顕微鏡による解析から、HiP-8はHGFにドッキングすることによってHGFのダイナミックな分子動態を阻害すること、(3)がん患者組織でHiP-8プローブによって検出されるtcHGFの局在は活性化MET(pMET)の局在とよく一致すること、(4)放射性Cuで標識したHiP-8プローブ(64Cu-HiP-8)ならびにヒトがん組織を模倣するヒトHGFノックインマウスを用いたPET解析から、HiP-8はtcHGFならびに活性化METの検出に優れた分子ツールになることを見出した(Sakai et al., Nature Chemical Biology, 2019)。HiP-8はがん転移ニッチの形成やがんの薬剤耐性をもたらすがん微小環境形成のメカニズム解析に有用であるとともに、がん転移や薬剤耐性阻止のための診断・治療につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
活性型HGFを特異的に認識・阻害するHiP-8について、化学特性やPET診断への応用の可能性を検証することができたことから、概ね順調に進んでいると判断される。
HiP-8を従来にない優れた化学特性をもつ分子ツールとして診断・治療の基礎研究に応用することに加え、並行して、がん転移ニッチの形成におけるHGFのプロセッシング、がん転移ニッチ形成におけるHGF-MET系の役割を明らかにする研究を進める。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (4件)
Nature Chemical Biology
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Biochim Biophys Acta - Proteins & Proteomics
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10.1016/j.bbapap.2019.140332
https://www.kanazawa-u.ac.jp/research/re-voice/rv1
https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/post-6718/
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70128
https://www.natureindex.com/article/10.1038/s41589-019-0285-7