研究実績の概要 |
DNA障害型抗がん剤の感受性を飛躍的に高めるSLFN11について、機能解析をすすめている。ここまでの研究で、SLFN 11がクロマチン構造を変化させ、最初期遺伝子と呼ばれる免疫やストレス応答に関する遺伝子の発現を高めることを報告した(Murai et al., Cell Rep. 2020)。Bリンパ球の分化段階において、SLFN 11は未分化の時点では高発現しているが、胚中心では著しく低発現となり、形質細胞へと分化する段階で再び発現を高めることを発見した(Moribe et al., PlosOne. 2021)。SLFN 11の発現制御因子やB細胞由来血液腫瘍の抗がん剤選択に繋がる発見である。臨床施設との共同研究により、SLFN11が複数のがん種において、プラチナ製剤の感受性予測マーカーになることが明らかになり、食道がん、胃がんについては2020年度内に論文化できた(Kagami et al., BMC Cancer, Takashima et al., British J of Cancer)。アメリカ国立衛生研究所との共同研究で、SLFN 11による複製制御機構 (Jo et al., PNAS 2021) や悪性中皮腫でのPARP阻害剤感受性増強作用(Rathkey et al., J of Thoracic Oncology. 2020)を報告した。SLFN11とある種のがん遺伝子とは共存できないことがわかってきたので、SLFN11ががん抑制遺伝子として機能する可能性を裏付けている。一方で、正常に比べてがん細胞でSLFN11の発現が高まるケースが多々あり、SLFN11を単純ながん抑制遺伝子として考えるのは難しいことがわかった(Takashima et al., Virchows Archiv. 2020)。
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