研究課題
Toll様受容体4の内因性リガンドであるS100A8は強力な血管透過性亢進作用をもち、これまでに転移前微小環境形成因子として同定した分子である。当該年度では、S100A8や他のTLR4内因性リガンドに関連した分子機序の解析を行い、主に、下記1.~2.の研究成果を得た。1.急性呼吸窮迫症候群モデルマウスを用いたS100A8の関与当該年度において、野生型マウスへのS100A8やリポポリサッカリド(LPS)の気管内投与により、急性呼吸窮迫症候群発症時に認められる硝子膜に類似した硝子膜様の構造変化すること、S100A8やLPSの気管内投与において転移前肺微小環境形成時に認められる骨髄由来抑制性細胞の肺への動員が亢進することを見いだした。2. 骨髄マクロファージ培養系におけるS100A8及びSAA3の分泌におけるLOX1の関与レクチン様酸化LDL受容体-1 (LOX-1)は血管内皮細胞やマクロファージに発現するC型レクチン受容体の一つであり、血管内皮不全やマクロファージの泡沫化を促進して動脈硬化の増悪化に関与する。本年度はS100A8及びSAA3の分泌機構におけるLOX-1の関与を調べるため、LOX-1遺伝子欠損 (LOX-1-KO)マウス由来の骨髄マクロファージ培養系を用いた解析を行った。その結果、LOX-1-KOマウス由来の骨髄マクロファージにおいて、LPSとNigericinの段階的処理によるNLRP3-カスパーゼ-1系の活性化とGasdermin Dの分解によるパイロトーシスが野生型と同程度に引き起こされ、培養上清中のIL-1β、S100A8及びSAA3の分泌量は野生型と比べ変化は認められなかった。これらの結果から、宿主LOX-1は骨髄マクロファージにおけるS100A8及びSAA3の分泌には関与しないことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
S100A8は、急性呼吸窮迫症候群に関与することが示唆されており、当該年度において野生型マウスにS100A8やLPSを気管内投与することにより、急性呼吸窮迫症候群発症時に認められる硝子膜に類似した硝子膜様の構造変化することを見いだした。次年度以降は凝固関連因子の発現解析やS100A8ノックアウトマウスを用いた解析を進める。
転移成立前後におけるフィブリンの発現に対するS100A8-TLR4シグナルの関与を明らかにするため、S100A8コンディショナルノックアウトマウスを用いて、担がんマウスの肺転移を有する肺を採取し、免疫組織学的染色により血管透過性亢進領域と非亢進領域の間でフィブリノーゲンや他の凝固関連因子の発現を解析する。急性呼吸窮迫症候群モデルマウスを用いてフィブリノーゲンや他の凝固関連因子の発現を解析する。さらに、LOX-1-KOマウスを用い、LLC細胞の皮下移植による担がんモデルを作製し、転移前肺におけるIL-1β、S100A8及びSAA3のmRNA発現に及ぼす宿主LOX-1欠損の影響を調べる。
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