研究課題/領域番号 |
19H03512
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
中馬 吉郎 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (40372263)
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研究分担者 |
寺尾 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50397717)
東元 祐一郎 久留米大学, 医学部, 教授 (40352124)
阿部 貴志 新潟大学, 自然科学系, 教授 (30390628)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNAアプタマー / 抗がん剤 / ホスファターゼ / 核酸医薬 / 分子標的薬 |
研究実績の概要 |
我々は,これまでイオン刺激により特徴的な四重鎖を形成し,特定の標的分子に結合するDNAアプタマー(Ion-Responsive DNA Aptamer, IRDAptamer)を開発し,このIRDAptamerが細胞膜透過能を有することを明らかにしている.2020年度はIRDAptamerの細胞内制御法の確立,ならびに細胞内副作用リスクの検証を行った.発がん原因タンパク質と知られている核内脱リン酸化酵素PPM1Dに特異的結合する IRDAptamerを用いて,内在性PPM1Dが過剰発現していることが報告されている乳がん由来MCF7細胞に対する細胞増殖抑制効果を解析した.その結果,PPM1D認識IRDAptamerはMCF7細胞増殖を抑制する一方,PPM1Dをほとんど発現していない肺がん由来A549細胞にはほどんと影響を与えなかった.このことから,IRDAptamerは,PPM1D過剰発現のがん細胞のみ増殖抑制を示す一方,PPM1Dが正常レベルの細胞にはほとんど影響を与えないことが示唆された.さらに外部刺激によるIRDAptamer機能制御法として,Naチャネル阻害薬ウワバインを用いた薬効制御法の確立を行ったところ,ウワバイン添加細胞によりPPM1D認識IRDAptamerのMCF7細胞増殖抑制効果増強が見られた.これらのことから,細胞内イオン濃度を制御することにより,IRDAptamerの薬効を制御できる可能性が示唆された. また,5’および3’末端を蛍光標識したIRDAptamerを合成し,イオン濃度依存的にIRDAptamerがG quadruplex構造誘導に伴うFRETが観察され,分光学的にIRDAptamerの構造変化をリアルタイム検出できる系の確立に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度当初計画として,IRDAptamerの細胞内制御法の確立,ならびに細胞内副作用リスクの検証を計画していた.IRDAptamerの細胞内制御法の確立に関しては,乳がん由来MCF7細胞を用い,Na+チャネル阻害剤ウワバインにより細胞内イオン濃度を変化させることにより,発がん原因タンパク質PPM1D認識IRDAptamerによる細胞増殖抑制効果を増強できることを確認した.また,IRDAptamerの5’および3’末端を蛍光標識し,FRETによるIRDAptamer構造変化のリアルタイム検出系の確立に成功した.また, PPM1D認識IRDAptamerの細胞増殖抑制効果がPPM1D過剰発現細胞でみられる一方,PPM1Dがほとんど見られない細胞には影響を与えないことから,IRDAptamerによる副作用リスクが極めて低いことが示唆された. これらのことより,研究の進歩状況はおおむね順調に進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として,2019,2020年度の研究成果をもとにマウス生体を用いたIRDAptemrの抗がん活性評価を行う.まず,複数種の免疫不全マウスを用いて,IRDAptmaer抗がん活性評価に用いるための乳がん由来MCF7細胞生着条件の検討を実施する.MCF7細胞生着マウスに対して,腫瘍組織でPPM1D過剰発現していることを確認した後,PPM1D認識IRDAptamerを皮下注射し,異所発現腫瘍細胞の増殖抑制効果を評価する.また,マウスの体重推移,ならびに血液中のサイトカイン変化を解析することにより,生体内における副作用リスクについても評価する. これらのマウスを用いたin vivo実験により,IRDAptamerの次世代創薬ツールとしての有用性を確認する.
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