研究課題/領域番号 |
19H03514
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
割田 克彦 鳥取大学, 農学部, 准教授 (40452669)
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研究分担者 |
保坂 善真 鳥取大学, 農学部, 教授 (00337023)
太田 健一 香川大学, 医学部, 助教 (50403720)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スタチン / 化学療法 / 薬効評価と予測 / がん代謝物 / ポリアミン |
研究実績の概要 |
Transforming Growth Factor-β(TGF-β)は、上皮系のがん細胞を間葉系へと変化させる上皮間葉転換(EMT)を誘導し、がんの悪性化に深く関与している。しかし、TGF-β誘導性のEMTとスタチンの制がん効果の関係についてはよくわかっていない。一般にTGF-βは、細胞の分化誘導にあたり細胞増殖を強力に抑制することが知られているが、上皮系肺がん細胞株NCI-H322MはEMT誘導とともに細胞増殖が惹起される特異的ながん細胞であった。興味深いことに、アトルバスタチンを処置したNCI-H322Mでは、TGF-βによる細胞増殖性の亢進が有意に抑制され、さらに、間葉系マーカーのN-cadherinとVimentinの発現増加は有意に抑制された。以上より、がん細胞へのアトルバスタチンの処置は、TGF-β依存性の細胞分裂を抑え、EMTの進行を抑制する可能性が示唆された。 一方、スタチンに高感受性を示す間葉系肺がん細胞株HOP-92に0, 0.1, 1 uMのアトルバスタチンを添加し、代謝物の変動を比較したところ、3群間で異なる代謝プロファイルが示された。中でも、SpermidineやSpermineといったポリアミンの物質が1 uM添加群で低値の傾向を示すことが明らかとなった。先行研究ではスタチンがアルギナーゼ(アルギニンをオルニチンと尿素に加水分解する酵素)の阻害を介してポリアミン合成の抑制に関与することが報告されており、同様の現象がみられた可能性が考えられる。とくにポリアミンは細胞増殖や細胞死とも関連があることから、スタチン感受性がん細胞においては、ポリアミンの減少がスタチンによる細胞死の一因になり得ることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スタチンが、TGF-β依存性に増殖するがん細胞に対し制がん効果を示すことが明らかになったこと、また、スタチンに感受性を示すがん細胞の代謝プロファイルを得ることができたことから、研究の進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
尿素回路の関連物質に着目すると、ポリアミンであるSpermidineがアトルバスタチン1 uM添加群で有意に低値を示しており、さらにその下流のSpermineについても1 uM添加群で低値の傾向を示していた。こうしたことから、ポリアミン合成が抑制されている、またはポリアミン分解が亢進している可能性が考えられ、今後はスタチン感受性がん細胞を用いてポリアミン合成における酵素活性の確認や、ポリアミンの増減による細胞死への影響を確認する予定である。具体的には以下の点に着目する。 ・ポリアミン合成に関しては、S-Adenosylmethionine (SAM)を必要とすることから、SAMの減少が影響を与えていることが考えられる。ポリアミンは細胞増殖に関与することが知られており(Schipper et al., 2000)、スタチン添加によりポリアミン量が低値になったことで細胞増殖が抑制されたかどうかを精査する。 ・ポリアミンの分解過程で過酸化水素を発生し、アポトーシスなどのプログラム細胞死を誘導することが報告されていることから(Moschou & Roubelakis-Angelakis, 2014)、HOP-92細胞におけるアトルバスタチン添加時の細胞死が、ポリアミンの分解量増加に起因するのか否かを解析する。
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