研究課題
各種がん細胞に対するDOT1L阻害剤(SGC0946、EPZ-5676)の抗腫瘍効果を検証した結果、乳がん細胞株および骨髄腫細胞株に対し高い増殖抑制効果を示した。DOT1L阻害剤の抗腫瘍メカニズムを明らかにするため、乳がん細胞株、骨髄腫細胞株をDOT1L阻害剤あるいはDMSOで6日間、9日間および12日間処理し、遺伝子発現をマイクロアレイ解析した。またヒストンH3リジン79ジメチル化(H3K79me2)をクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)で解析した。マイクロアレイデータを解析した結果、DOT1L阻害剤により発現低下する遺伝子には、細胞周期関連遺伝子や、oncogeneシグナル関連遺伝子が多く含まれていた。一方、発現上昇する遺伝子には、免疫応答、インターフェロン応答関連遺伝子がエンリッチしていた。とくに骨髄腫細胞では、MYC、IRF4、PRDM1、KLF2などのIRF4-MYCシグナル関連遺伝子がDOT1L阻害により発現抑制を受けた。またこれらの遺伝子領域のH3K79me2レベルが顕著に低下した。骨髄腫細胞の生存は、IRF4-MYCシグナルに依存することが報告されており(Nature, 2008)、DOT1L阻害による抗腫瘍効果のメカニズムとして重要と考えられた。またDOT1L阻害により、Interferon stimulated gene (ISG)発現の上昇が認められた。近年DNAメチル化酵素(DNMT)阻害剤により、がん細胞の内在性レトロウイルス(endogenous retrovirus, ERV)発現が誘導され、ERV由来のdouble strand RNAがインターフェロン応答を引き起こすことが報告された(Cell, 2015)。そこでDOT1L阻害剤処理後の骨髄腫細胞におけるERV発現を定量RT-PCRで解析したところ、一部のERVの発現上昇が確認された。これらのことから、DOT1L阻害がDNMT阻害剤と類似のメカニズムでインターフェロン応答を誘導する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
DOT1L阻害剤の各がん細胞に対する抗腫瘍効果を検証し終えた。DOT1L阻害剤が抗腫瘍効果を示すがん細胞株を同定し、増殖アッセイ、コロニーアッセイ、細胞周期解析、アポトーシス解析を行った。またDOT1L阻害が遺伝子発現プロファイルに与える影響をマイクロアレイ解析し、ヒストン修飾に与える影響をクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)で解析した。これらの解析から、DOT1Lがoncogene signal関連遺伝子発現を抑制すること、インターフェロン応答関連遺伝子発現を活性化することを明らかにした。
DOT1L阻害がゲノムワイドな転写に与える影響を、ATAC-seqにより解析する。またDOT1L阻害によるインターフェロン応答のメカニズムをさらに解明するため、各種IFNおよびIFN受容体の発現を定量RT-PCR、ELISA法、flow cytometryなどにより解析する。またDOT1L阻害により誘導される内在性レトロウイルスやdouble strand RNAの発現と、インターフェロン応答との相関を明らかにする。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件)
PLoS One
巻: 15 ページ: e0229262
doi: 10.1371/journal.pone.0229262
Clin Epigenetics.
巻: 11 ページ: 70
10.1186/s13148-019-0668-3
Haematologica
巻: 104 ページ: 155-165
10.3324/haematol.2018.191262
Digestion
巻: 99 ページ: 33-38
10.1159/000494410