研究課題/領域番号 |
19H03519
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
山田 健人 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (60230463)
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研究分担者 |
林 睦 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60327575)
西田 浩子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80317130)
山田 幸司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (90570979)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抗体療法 / スーパーエンハンサー / CD26 / RNAポリメラーゼII / 抗体抗がん剤結合薬ADC |
研究実績の概要 |
CD26は多種類のヒトがん細胞表面に高発現している。われわれは、ヒト化抗CD26モノクローナル抗体の開発を通じて、本抗体がCD26をがん細胞膜表面から核内に移行させ、RNAポリメラーゼII(POL II)サブユニット(POLR2A)の転写を抑制し細胞増殖を阻害すること、この核移行と増殖阻害が、がん細胞特異的であることを報告した(PLoS One 8:e62304,2013)。また、抗がん分子を本抗体に結合させ核内で抗がん効果を発揮させる方法を開発した(特願2017-538530, PCT/JP2016/076542)。近年、がん特異的なスパーエンハンサー(SE)による遺伝子制御機構が発見され、このPOL IIがその構成分子であることが報告された(Science 346, 1373, 2014)。一方、がん抑制遺伝子p53近傍にあるPOLR2A遺伝子がヘテロ欠失し、がん細胞がPOLR2A阻害剤に高感受性でありことから、POL IIが新たな分子標的療法の標的となることが明らかとなった(Nature 520:626,2015)。そこで本研究では、1)がん組織特異的SE形成へのPOL IIの関与の分子病理学的解析、2)がん組織検体におけるSE形成およびPOLR2A遺伝子欠失と相関するバイオマーカーの探索、3)本抗体とSE・POL II阻害分子の結合による新規分子標的療法の開発、を行う。本ヒト化抗体は、免疫機構を介した抗がん作用のみならず、増殖抑制などの直接的な抗がん作用を持つことから、この抗体-薬剤複合体(Antibody-Drug Conjugate;ADC)の開発は、多種類のがん細胞に広く高発現しているCD26を細胞表面での第一の標的、核内POL IIを第二の標的、そして、がん特異的SEを第三の標的として、強力で安全性の高い新規分子標的療法となるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)がん組織特異的SE形成へのPOL II関与の分子病理学的解析:がん遺伝子とそのSE領域が明らかなCD26陽性がん細胞株を用いて、ヒト化抗CD26抗体、SE阻害分子(JQ1, iBET151)およびPOL II阻害分子(α-amanitin)処理後のPOLR2A発現低下によるSE形成変化を検討した。その結果、いずれの処理群において、それぞれに特徴的な領域特異的SE形成抑制が見られた。 2)がん組織検体におけるSE形成およびPOL IIサブユニットA POLR2A遺伝子欠失と相関するバイオマーカーの探索:各種がん組織においてChIPseqを行いSE領域構造を解析した。その結果、各がん種に特徴的なSE構造を見出した。現在、そのSE領域への結合分子について免疫沈降によりスクリーニングしている。またPOL IIサブユニット、メディエーターの局在を同一検体において観察することで、がん種特異的SEをスクリーニングしうるか検討している。またp53・POLR2A遺伝子ともに野生型あるいはヘテロ欠失型大腸癌を用いて、POL II構成分子および基本転写因子に対する抗体を用いた免疫染色を行っており、p53・POLR2Aヘテロ欠失がん組織におけるPOLR2A遺伝子欠失のマーカの候補を見出した。 3)本抗体とSE・POL II阻害分子の結合による新規分子標的療法の開発:JQ1, iBET151およびα-amanitinをヒト化抗CD26抗体へ結合させることで、抗体-薬剤複合体を開発している。初年度は、各阻害分子にGMB 試薬と反応させ、マレイミド基を導入、あるいはSPDP 試薬と反応させ、ジチオピリジニル基を導入した。また阻害剤のアミノ基を予めサクシニル化しておき、これをN-succinimideで活性化させ、縮合剤を用いて抗体のアミノ基とアミド結合で連結させることを試みている。
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今後の研究の推進方策 |
がん組織特異的SE形成へのPOL II関与の分子病理学的解析:がん遺伝子とそのSE領域が明らかなCD26陽性がん細胞株で、ヒト化抗CD26抗体処理後のPOLR2A発現低下によるSE形成変化が明らかとなった。本年度以降は、引き続きSE形成変化を解析、抗体・SE阻害分子処理さらにその併用効果について検討する。またPOL II阻害分子処理後のSE形成変化と標的遺伝子発現変化を同様に解析し、POL IIの質的・量的変化によるSE構造・活性への影響を明らかにする。 がん組織検体でのSE形成・POLR2A遺伝子欠失と相関するバイオマーカーの探索:各種がん組織においてChIPseqを行い、SE領域構造解析を継続し、そのSE領域への結合分子を免疫沈降・質量分析により同定する。同定分子およびPOL IIサブユニット、メディエーター、コアクチベーターの局在を同一検体で観察することで、SE標的療法におけるバイオマーカーを探索する。POL IIについては、p53・POLR2A遺伝子ともに野生型大腸がん組織と両遺伝子ヘテロ欠失型大腸癌組織を用いることで、POLR2A遺伝子欠失のマーカー候補を見出した。そこで17p13領域、p53およびPOLR2A遺伝子についてFISH法での比較検討を行い、ヘテロ欠失を鋭敏に検出できる方法を確立する。 本抗体とSE・POL II阻害分子の結合による新規分子標的療法の開発:SE阻害分子やPOL II阻害分子をヒト化抗CD26抗体へ結合させるための独自のリンカーの検討を行ってきた。本年度は至適条件を決定し、がん細胞表面から核内へ移行し、SE形成阻害およびPOL II阻害効果を発揮する、毒性が低い抗体-薬剤複合体(Antibody-Drug Conjugate ; ADC)を合成、開発する。
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