研究課題
(1)ヒト培養大腸がん細胞株および患者由来大腸がん細胞について、Wnt/β-カテニン経路、KRAS/BRAF経路、PI3K/AKT経路などのがん性ドライバー変異の共存状態をゲノム解析で精査し、タンキラーゼ阻害剤感受性との相関を調べたところ、20アミノ酸リピートを完全欠失した短鎖型APC変異が主要な感受性相関因子であることが確認された。但し、20アミノ酸リピートを部分的に保持する長鎖型APC変異を有する細胞でも感受性を示す例があり、さらに精査したところ、β-カテニンの核内蓄積が顕著な細胞株がタンキラーゼ阻害剤に感受性を示すことが明らかとなった。(2)我々はタンキラーゼ阻害剤がCD44陽性大腸がん幹細胞に対してより強い増殖抑制効果を示すことを見出していたが、今年度はこれと関連して、同剤はCD44陽性大腸がん幹細胞が高発現するc-KITの転写を抑制することを見出した。この現象はアキシンの蓄積に依存するがβ-カテニンの低下とは関係せず、転写因子SP-1とc-KIT遺伝子プロモーターの結合低下に起因することを突き止めた。また、患者由来大腸がん細胞でも同じ現象が誘導されることが確認された。(3)すでに同定したタンキラーゼ阻害剤合成致死因子について、当該shRNAによりタンキラーゼ阻害剤の効果が増強される細胞株を様々な臓器由来がんで探索し、合成致死が誘導される細胞株とされない細胞株を同定した。(4)上記(2)の結果を踏まえ、大腸がん細胞株COLO-320DMのマウスゼノグラフトモデルにおいて、タンキラーゼ阻害剤と細胞傷害性抗がん剤の併用を試みた。その結果、タンキラーゼ阻害剤G007-LKは、それ単独では抗腫瘍効果を発揮しない低用量において、抗がん剤イリノテカンの効果を増強した。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)大腸がんにおける薬効予測バイオマーカーの探索については、20アミノ酸リピートを完全欠失した短鎖型APC変異を有力候補としていたが、一部例外的に感受性を示す細胞株があった。今回の検討で、β-カテニンの核内蓄積パターンを評価することで、より精度の高い感受性予測が可能となった。(2)大腸がん幹細胞のターゲティング手法としての妥当性と分子機序の検証については、タンキラーゼ阻害剤によるc-KITの発現低下という現象のみならず、その分子機序として遺伝子プロモーターへのSP-1の結合の低下を見出すことが出来た。しかも、この現象は複数の細胞株で再現された。(3)合成致死因子の同定とこれに合わせたがん治療モデルの構築については、細胞パネルを用いた大規模探索により、合成致死が成立する細胞株と成立しない細胞株をそれぞれ多数同定することができた。これらは今後の解析に有用な情報を提供すると期待される。(4)有効なin vivo併用療法モデルの構築については、タンキラーゼ阻害剤とイリノテカンの併用効果を確認することができ、今後の非臨床試験における治療プロトコールをデザインする上で、きわめて重要な情報となった。
(1)大腸がんにおける薬効予測バイオマーカーの探索タンキラーゼ阻害剤感受性細胞株および薬効予測バイオマーカーの候補因子を同定したので、今後はこれらの細胞株のゼノグラフトマウスの構築を試みる。さらに、構築されたゼノグラフト系を用い、タンキラーゼ阻害剤のin vivoレベルでの制がん効果を検証する。(2)大腸がん幹細胞のターゲティング手法としての妥当性と分子機序の検証RNA干渉やゲノム編集によりCD44陽性大腸がん幹細胞におけるc-KITの機能修飾を行い、がん幹細胞性の変化を解析することで、がん幹細胞性に対するc-KITの機能的寄与を明らかにする。(3)合成致死因子の同定とこれに合わせたがん治療モデルの構築タンキラーゼ阻害剤の細胞増殖抑制効果を増強するshRNAが惹起する細胞応答をトランスクリプトーム解析および免疫生化学的手法で観察するとともに、合成致死性が認められたがん細胞株と認められなかったがん細胞株のエクソーム解析に着手する。
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