近年の分子標的薬やがん免疫療法などを含む各種薬物療法の目覚ましい進歩により、進行肺がんの予後は著しい改善がみられてきたが、獲得耐性の出現が大きな問題である。本研究では、いつ、どのように、耐性は生じていき、なぜ現状獲得耐性が避けられないのかを、治療薬奏功後にわずかに残る治療残存細胞(Persistent細胞)の性状を明らかにし、新規治療標的となる分子(パスウェイ)と新規治療法を同定し、「耐性を生じなく(生じにくく)する新しい治療法の発見」を目指し、本研究を開始した。 2021年度は2020年度から継続して取り組んでいる培養細胞モデル系、担がんマウスモデル系、再発症例由来培養細胞株のモデル系の作製について、耐性細胞株を新たに樹立するとともに、治療抵抗性機構の解析と、治療残存細胞の解析、治療抵抗性克服法の探索等を行った。 主たる成果の中で論文として発表した一部を次に概説する。ALK融合遺伝子は肺がんの約3%に見られ、現在は5種類のALK阻害薬が承認されているが、中でも最もALKキナーゼの阻害活性が高いのがロルラチニブである。ロルラチニブは最近初回治療から使用することも承認されたが、これまではアレクチニブなどの第2世代ALK阻害薬の治療後などに使用されることが多かった薬剤である。このロルラチニブ治療に対する抵抗性機構を考える上で、ロルラチニブを処理した際にどのようにしてALK陽性細胞の一部が生き延びて耐性の芽となっているのかを明らかにするために、いわゆる治療残存細胞の解析を行った。その結果、GSK3の活性化が治療残存細胞の生存に大きく寄与しており、GSK3阻害薬を併用することで残存細胞が著しく減少すること、完全にALK阻害薬となった患者由来の細胞においても一部ではGSK3阻害剤をロルラチニブ等と併用することで耐性克服ができることを見出し、論文として発表した。
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