研究課題/領域番号 |
19H03526
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
冨田 章弘 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター ゲノム研究部, 部長 (40251483)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん細胞 / 代謝異常 / ストレス応答 / がん化シグナル、 / 分子標的治療 |
研究実績の概要 |
Integrated Stress Response (ISR)は、細胞内の代表的な代謝ストレス応答経路であり、細胞防御機構として機能する。本研究では、がん化シグナルによるISR制御機構に焦点を当て、種々のがん化シグナルやその関連因子によるISR制御の分子機序ならびに腫瘍増殖における役割を明らかにし、ISRの治療標的としてのPOCを取得することを目指す。そのため、大きく3つの研究項目に分け推進する。今年度は、昨年度までの成果に基づき、以下の研究を行った。項目1)「ストレス応答機構を破壊する治療戦略の有用性検証」では、BCR-ABL阻害剤として開発の進められているGZD824が、ISRを駆動するGCN2キナーゼを直接阻害する活性を有しており、アミノ酸飢餓によるISR活性化を阻害しがん細胞をアミノ酸飢餓ストレスに高感受性化することを見出した。また、こうしたGCN2キナーゼを直接阻害する化合物と、がん化シグナル標的薬のEGFR阻害剤やPI3K阻害剤について、ストレス応答阻害効果の性状比較の実験を進めた。項目2) 「がん特異的なISR制御機構の分子基盤解析」では、活性化がん遺伝子BRAFの下流で、ISR制御に関与する可能性を見出していた翻訳開始因子について、ノックアウト細胞を作製しISR制御への関与を確認した。また、活性型NRASが小胞体ストレスに対する抵抗性因子となることを見出し、アポトーシス関連因子のノックダウン等によって検証実験を進めた。また、項目3)「ストレス応答の多様性解析に基づく創薬標的・バイオマーカーの探索」では、JFCR39細胞株パネルのトランスクリプトーム・データから見えるストレス応答多様性とがん化シグナルとの関係について外部データを活用した検討を進め、活性化BRAFが、メラノーマ患者検体においてもISRの活性化に関与する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、種々のがん化シグナルやその関連因子による、がん細胞のストレス適応の制御機構に焦点を当て、その分子機序ならびに腫瘍増殖における役割を明らかにすることを通じ、腫瘍環境選択的、かつ、がん細胞選択的な新しい治療法開発への展開を目指している。当該年度では、項目1)においては、GCN2キナーゼを直接阻害し、ISR活性化を阻害する新たな化合物の同定に成功した。こうした化合物との比較検討により、がん化シグナル標的薬のストレス応答阻害効果の特徴が明確になりつつある。一方で、本項目ではゼノグラフトモデルを用いた動物レベルでの薬効評価の研究も視野に入れ進めているが、当該年度についてはCOVID-19感染症対策のため、準備を進めていたゼノグラフトが使用不可となり、研究が予定通り進まない点もあった。他方で、人的資源の配分を工夫する等によって、項目2)の活性化がん遺伝子による翻訳制御に着目した分子機序解析や、項目3)のトランスクリプトーム・データを用いた検討が順調に進展し、興味深い知見を想定していた以上に蓄積できたものと考えている。以上のように、計画全体としては、おおむね順調に進展したものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間の計画で第2年次終了時点であり、研究はおおむね順調に進み、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題はないものと考えている。第3年次の最終年度においては、当初の予定通り、2020年度までの成果に基づき、研究を継続する。具体的には、項目1)では、ISRの制御機構を破壊し合成致死を誘導する化合物等の組合せについて、想定した分子機序で抗腫瘍効果に結びつくかを検証する研究を継続し完了させる。項目2)では、引き続き、種々の活性化がん遺伝子によるISR制御の分子機序の解析を進め、ISRをがん特異的に標的化する治療戦略のPOC強化を図る。また、項目3)では、引き続き、JFCR39細胞株パネルにおいて認められる、栄養欠乏に対するストレス応答の多様性の機序解明に有用な情報を得るべく、遺伝子発現情報等を活用したバイオインフォマティクス研究を推進する。
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