研究課題
本年度は、新規TEAD阻害剤(YAP1/TAZ阻害剤)のK-975に対する用量反応曲線の検討から、NF2-Hippoシグナル伝達経路が破綻しているにもかかわらずK-975に低感受性を示した中皮腫細胞株に着目した。K-975に高度感受性を示す細胞株4株と低感受性株3株を選択し、RNAの発現解析を行った。K-975によるYAP1標的遺伝子の発現を定量RT-PCRで解析したところ、両グループともCYR61,ANKRD1といったYAP標的遺伝子の発現低下が認められたが、低感受性株での減少幅は優位に小さかった。これらの結果は、K-975によるYAPの転写活性の阻害効果自体が不十分であることが低感受性につながった可能性を示唆していたため、その点についてさらに詳細な解析を開始した。さらに遺伝子発現プロファイリングを行いGSEA解析を施行したところ、低感受性株ではmTOR経路の遺伝子群の発現上昇が確認され、mTOR経路の活性化による代償作用によりK-975の阻害効果が減弱されていることが強く示唆された。低感受性株2株に対してmTORC1阻害剤であるeverolimusを投与したところ十分な細胞増殖抑制効果が見られ、さらにK-975による上乗せ効果も観察された。前年度から試みていたK-975に対する獲得耐性株の樹立(MSTO-211H,NCI-H2052)に成功した。両者ともIC50値は10microM以上であり、それぞれ250倍、78倍の濃度のIC50値を獲得した。現在、元の細胞株と獲得耐性株を用いてゲノム解析、発現解析を開始しており、耐性化の原因となったメカニズムに対する検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
新規TEAD阻害剤を用いた解析が順調に進んでいる。NF2-Hippo経路に破綻が生じているにもかかわらずK-975に感受性を示さないメカニズムについて、YAP1そのものに対する不十分な阻害効果、あるいは他の増殖シグナル系が代償作用として働いているなど、幾つかの重要な知見が獲得された。さらに、K-975に対する耐性株の樹立に成功し、その耐性獲得のメカニズムに対して検討が開始できるなど、本研究計画は順調に進んでいると考えられる。
本年度が3年間の研究計画の最終年度である。交付申請書にも記載した内容について解析を進めていく予定である。新規TEAD阻害剤は今後の臨床応用が強く見込まれるので、さらに研究を強力に進めていく予定である。
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Molecular Cancer Research
巻: - ページ: -
10.1158/1541-7786.MCR-20-0637
Am J Cancer Res
巻: 10 ページ: 4399-4415