研究課題
我々は、世界に先駆けて、単なる解糖系の終末代謝産物であると考えられていたがんから放出される乳酸が、がん周囲の異常な免疫環境を形成するのに関与する事を発見した。乳酸が、骨髄系細胞やマクロファージに働き、4つのシグナル経路を活性化することを明らかにしてきた。すなわち、乳酸イオンによる IL-23産生依存的及び非依存的炎症誘導経路、乳酸とともに放出されるプロトンによる免疫抑制経路、乳酸とプロトンによるエピジェネティック変化である。今年度、岐阜大学耳鼻咽喉科のグループと共同で、解糖系の指標としてFluorine-18 fluorodeoxyglucose-positron emission tomography (FDG-PET)のパラメーターのSUVmax (Standardized uptake value)やSUVmeanが、M2マクロファージ誘導と関連していることを報告した。また、乳酸イオン及びプロトンシグナルを解析した。Histone H3K27のAcetyl化は、EPAC1だけでなくEPAC2の両方のinhibitorで抑制された。また、Lactic acid, プロトンに加え、Sodium lactateもH3K27のアセチル化に関わることが明らかとなった。また、乳酸によるIL23A遺伝子の発現誘導に関わる因子を探索するために、J774細胞株でIL23Aプロモータ領域を用いて、Lactic acid依存的にEGFPが発現するシステムを開発した。今後、乳酸シグナルに関わる遺伝子をCRISPR/Cas9ライブラリーをもちいたシステムを用いて解明する予定である。腎癌組織における研究も、倫理委員会の承認も得られ、腎癌組織も使用できるようになり、臨床での代謝と免疫機構に関する研究を促進する。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、代表者の異動があり、その準備を着実に進めてきた。2020年度は、mRNAを効率よく回収するために、組織破壊装置を購入した。今年度は、京都大学の遊佐宏介教授と共同研究を進め、乳酸シグナル分子を同定する準備が整った。
本研究では、(1)乳酸イオン及びプロトンシグナルの全容の解明。 (2) 臨床組織における乳酸シグナル経路の関与の検討に関して研究を遂行する。(1)乳酸イオン及びプロトンシグナルの全容の解明(1-1)EPAC1/2によるHistone H3K27亢進メカニズムの解析として、乳酸シグナルの中で、これまでIL23/IL17経路の活性化、Arginase Iの活性化によるT細胞の増殖抑制の経路を明らかにしてきた。新たな乳酸の作用として、我々は、乳酸によってHistone H3K27のアセチル化を亢進することを発見した。そこで今回、特異的な阻害剤を用いて、EPAC1/2阻害剤を用いて個体レベルでの乳酸および酸性化によるEPAC1/2シグナル経路を解析する。また、アセチル化で制御される遺伝子を明らかにする。(1-2)IL23/IL17経路活性化メカニズムの解明として、今年度は、上記システムを用いて、全遺伝子を破壊できるCRISPRライブラリーをAddgeneまたは開発者の京都大学遊佐宏介教授より供与いただき、EGFPが発現誘導されないクローンをセルソーターで回収し、その細胞から、原因遺伝子を同定する。(2) 臨床組織における乳酸シグナル経路の関与の検討。これまで、申請者らは、乳酸が高いことが知られている頭頸部がん組織を用いて、乳酸濃度とM2様マクロファージの浸潤との関連を検討してきた。他の様々ながんにおいて乳酸によるIL23/IL17経路の亢進やM2様マクロファージとの関連を解析する。とくに、今回、和歌山県立医科大学泌尿器科のグループと共同で、腎癌組織における代謝産物と免疫系との関連および腎癌患者の予後との関連を検討する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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