本研究課題では、超高磁場MRIと用いて機能的MRI(fMRI)信号の定量化を行い、脳の各領域の層内の活動量を計測することを目的としている。また、fMRI計測を含めたマルチモダル計測法を開発し、脳酸素代謝計測法を確立することを目指している。 今年度の研究では、vascular space occupancy (VASO)法による高解像度脳血液量計測(面内解像度0.75x0.75mm)により、皮質層ごとの活動を計測した。その際、運動準備の有無によって運動野皮質内の興奮性と抑制性の神経活動の割合が異なるとの先行知見から、手の運動タスクを行い、皮質層ごとの活動の違いを検討した。その結果、運動野におけるfMRI信号は、皮質表面で最も大きく、深さ方向に信号が減衰したことが分かった。また、運動準備を行った運動タスクのfMRI信号は、単純な運動タスクよりもわずかに小さいことが分かった。脳血液量を反映するVASO信号も皮質表面で大きく、深層で小さい。しかし、運動準備による運動タスクにより表層のVASO信号は大きく減少したことが明らかになった。神経活動をより反映する脳血液量を、層ごとの活動分離が可能な解像度で計測することで、運動野の表層部の活動低下(抑制)が運動準備と関連していることを明らかにした。脳血液量計測に加えて、視覚刺激や運動タスク時の脳血流量を反映する縦緩和時間(T1)の計測を行った。当該計測には、昨年度に開発した脳構造画像解析法に用いた撮像法を利用した。その結果、T1変化は主に灰白質上で観察されたが、fMRI信号の変化はT1変化近傍の脳脊髄液において観察された。現在、VASO法とT1計測およびfMRI信号からの酸素代謝見積法を検討している。
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