研究課題
大脳皮質が形成され、神経ネットワークができる胎生後期の脳は外的撹乱の影響を受けやすいが、この時期の脳に発現する遺伝子群の異常も脳の器質的な障害に結びつきやすいと考えられる。シナプスオーガナイザーの遺伝子はこれまで20種類程度知られているがその多くが脳で発現し、RNA に転写される際に繋ぎ変え編集、すなわちエクソン選択による編集を受けて多様なタンパク質が作り出されることでシナプスは多様となる。本研究では、精神疾患モデルマウスの RNA スプライシングを調べ、その制御機構と精神疾患との関係を明らかにする。母体への Polyinosinic-polycytidylic acid (Poly(I:C)) 投与によって、産仔に自閉症様行動異常を誘発する母体免疫活性化モデルマウスを用いて、胎児および産仔脳内で 3つの微小エクソンをもつシナプスオーガナイザー遺伝子のスプライシング選択比率を PCR フィンガープリント法にて解析した。妊娠 12. 5日のマウス腹腔内に 10mg/kg のPoly(I:C)(投与群)あるいは生理食塩水(対照群)を投与した後、妊娠 14.5日目の胎児、生後2日および8日目の産仔から左右の大脳皮質を摘出し、微小エクソンの選択比率を評価した。その結果、14.5日目の胎児の大脳皮質において特定の微小エクソンの選択比率が Poly(I:C) 投与群で有意に減少していた。一方、生後2日および8日目の産仔においては投与群と対照群の間に有意な差は認められなかった。このことから、母体免疫活性化は胎生期の脳において一過的にこの遺伝子の微小エクソンの選択調節を撹乱することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
シナプスの分化誘導を担う主要なシナプスオーガナイザーの一つである PTPδ の遺伝子である Ptprd について、Polyinosinic-polycytidylic acid (Poly(I:C)) 投与による母体炎症モデルで得られた産仔の脳における微小エクソン選択比率を妊娠 14.5日目の胎児、生後2日および8日目の産仔で調べ、妊娠 14.5日目の胎児でのみ選択比率が有意に変化していることが明らかとなった。炎症によってシナプスオーガナイザー分子の微小エクソン選択が胎児期に変動するという結果は画期的なものであり、胎児期の微小エクソン選択調節は神経発達障害のメカニズムに重要な役割を果たしていると考えられた。以上のように重要な知見が蓄積されており、本研究は順調に進展していると言える。
これまでに母体炎症モデルにおける PTPδ 微小エクソン編集のプロファイリングを進めてきた。今後は同モデルでの解析をさらに詳細にすすめるとともに他のシナプスオーガナイザーについても微小エクソン選択プロファイリングをすすめる。胎生期から生後発達期に発現するシナプスオーガナイザーは PTPδの他にも 20種類ほど知られ、これらには PTPδ と同じように微小エクソンを持つものが多数存在する。また、少しサイズは大きいが脳特異的に選択的スプライシングをする遺伝子もある。これらを含めて微小エクソン選択を各種精神疾患モデルにおいてプロファイリンを行う系を立ち上げ、定量解析を行う。また、代表者はこれまでに多数の精神疾患モデルマウスを同定している。これらのマウスについても発達期の微小エクソン選択についてプロファイリングを行う。この解析により、遺伝的要因の精神疾患モデルについてもその神経回路形成異常を微小エクソン選択制御異常で説明できる可能性がある
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