研究課題
大脳皮質が形成され、神経ネットワークができる胎生後期の脳は外的撹乱の影響を受けやすいが、この時期の脳に発現する遺伝子群の異常も脳の器質的な障害に結びつきやすいと考えられる。シナプスオーガナイザーの遺伝子はこれまで20種類程度知られているがその多くが脳で発現し、RNA に転写される際に繋ぎ変え編集、すなわちエクソン選択による編集を受けて多様なタンパク質が作り出されることでシナプスは多様となる。本研究では、精神疾患モデルマウスの脳においてシナプスオーガナイザー遺伝子の RNA スプライシングを調べ、その制御機構と精神疾患との関係を明らかにする。母体への Polyinosinic-polycytidylic acid (Poly(I:C)) 投与によって、産仔に自閉症様行動異常を誘発する母体免疫活性化モデルマウスを用いて、胎児および産仔脳内で 3つの微小エクソンをもつシナプスオーガナイザー遺伝子の一つである PTPδ の遺伝子である Ptprd についてスプライシング選択比率を PCR フィンガープリント法にて解析した。Poly(I:C)投与群から得られた胎児では特定の微小エクソンの選択比率がコントロール群に比べて有意に減少しており、生後ではそれらの差が見られなかった。母体免疫活性化は胎生期の脳において一過的にこの遺伝子の微小エクソンの選択調節を撹乱することが示唆された。母体炎症モデルで変化することを既に示しているシナプスオーガナイザーPtprd遺伝子のマイクロエクソンBのスプライシングによる選択比率を、ゲノム編集によって人為的に改変したモデルマウスを作出した。このマウスは不安の亢進や社会性発達の障害などの発達障害に関連した行動表現型を示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度はこれまでに母体炎症モデルで変化することを確認したシナプスオーガナイザー Ptprd 遺伝子のマイクロエクソンBのスプライシングによる選択比率を、ゲノム編集によって人為的に改変したモデルマウスを作出し、その表現型解析を行った。このマウスは不安の亢進や社会性発達の障害などの発達障害に関連した行動表現型を示しており、Ptprd 遺伝子のマイクロエクソンBのスプライシングによる選択比率が母体炎症モデルの産仔で見られる自閉症様行動を説明しうる結果が得られている。このような理由により本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
これまでに母体炎症モデルでは母体への Polyinosinic-polycytidylic acid (Poly(I:C)) 投与が使われているが、このモデルは急性の炎症を模しており、かなり重篤なものである。実際、得られる産仔数がゼロになる場合も多々起きている。このような重篤な炎症性疾患ももちろん問題ではあるが、近年増えているアレルギーや自己免疫疾患などの慢性的な炎症が産仔に与える影響についても明らかにすることが求められている。今後は慢性の炎症モデルとして全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルマウスを母親として野生型マウスの産仔を得ることを計画している。これまでに SLE モデルマウスに野生型マウスの受精卵の移植を試みたが、極めて着床率が悪かった。使用したSLEモデルマウスは自然交配では正常に産仔が得られる事が知られており、ホルモン投与の方法や投与後の移植のタイミングなどの最適化が必要と考えられる。
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