本研究は、運動ニューロンに特徴的な発現を示すRNA結合蛋白質を選別し、得られたRNA結合蛋白質を機能解析をする事で、脊髄運動ニューロン固有のRNA制御プログラムを解明し、その生理的機能及びALSなどの運動ニューロン病の病態との関連性を明らかするものである。我々は、これまで約1500種類存在するRNA結合蛋白質の中で、Qki5蛋白質が運動ニューロン特異的な発現を示す唯一のRNA結合蛋白質であることを見出した。次に、蛋白質-RNA相互作用マッピング解析HITS-CLIPとRNAシーケンス技術にマウス遺伝学を組み合わせた解析を実施し、脊髄運動ニューロン固有のRNA制御プログラムを解明し、Qki5の生理的機能及び病態との関連性の解析を行った。発生段階および成体の脊髄における免疫組織学的解析により、Qki5が神経細胞の中で運動ニューロンにおいてのみ発現する特徴的な発現パターンを有する事を明らかにした。ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いたシングルセルトランスクリプトーム解析では、免疫組織学的解析で得られた特徴的なパターンと一致し、Qki5の発現は、運動ニューロン特異的分子isl-1遺伝子と同じクラスターに存在していることが明らかとした。Qki5をノックダウンさせた運動ニューロンを用いたトランスクリプトーム解析を実施し運動ニューロン固有の標的下流RNA群の探索を行い、新規のCryptic exonの発見に加え運動ニューロン変性と密接に関わる分子経路の同定に成功した。また、運動ニューロンによるコンディショナルQk遺伝子欠損マウスの解析では、リン酸化cJun陽性の運動ニューロンの蓄積、生後1年のマウスが脊髄後弯症を呈する事を明らかにした。以上、Qki5が運動ニューロン固有の選択的スプライシング制御を担う因子である事および運動ニューロンの生存に必須な因子である事が実証した。
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