研究実績の概要 |
本研究では、遺伝要因や環境要因で脳内になんらかの脆弱性が生じていると考えられるマウスを用いて、思春期で最も大きなストレスである社会性ストレスによって引き起こされるであろう脳内炎症が、これらの脆弱性を持つマウスの脳での脳機能ネットワークの発達過程にどのような影響を及ぼして、特異的な行動変化につながるのかを明らかにすることを目的とする。 今年度は、母体炎症モデルにおいて思春期における社会性ストレスで様々な認知機能のドメインに変化が見られること(論文準備中)、社会性ストレスで脳内炎症が起こるという報告、に基づき、脳内の炎症、特にミクログリアが認知機能に重要な前頭前野の細胞にどのような影響を及ぼすかをラットのLPSチャレンジモデルで解析し、出力細胞である錐体細胞の活動性を低下させる事を電気生理学的に明らかにした(Yamawaki et al, 2022)。この結果は以前に小脳で報告されたLPSの影響とは異なり、脳内炎症で起こる事象は脳部位によって異なる影響を示す事を示唆する(論文準備中)。したがって、様々な脳領域が絡むと考えられる認知機能への脳内炎症の影響は、前頭前野の活動性の低下に加えて他の脳領域特異的な様々な影響の複合的な結果とも考えられ、今後さらなる多領域における総合的な解析が必要と考えられる。 こういった知見に基づいて、今後は脳内の脆弱性の分子、細胞レベルでの理解、またその発達過程における思春期の社会性ストレスの影響を明らかにしていくことが重要であると考える(Sakurai in press)。
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