生体内のATP動態を可視化する技術を用いて連関する臓器を見出し、認知症の早期診断に応用する取り組みを行う準備をしてきた。 その過程で、生体内のATP動態を細胞質内(つまり解糖系と電子伝達系の総和)とミトコンドリア内(つまり電子伝達系のみ)に分けて計測できる技術を開発することに成功した。この技術を用いることで実際に、生体内で電子伝達系により産生されるATP量を細胞レベルから臓器レベルで計測できるようになった。これにより、当初は腎臓に作用することが知られていたSGLT2阻害薬が心臓のミトコンドリア機能を改善することを発見した。さらに、in vitroの実験を行うことで、この阻害薬が直接的にミトコンドリア機能を改善する可能性を明らかにした(Choi et al. Communication Biology 2023)。 この技術を用いることで認知症モデルマウスでもY maze testによる空間記憶および行動異常計測ができる方法にて認知行動異常が生じるよりも3ヶ月前に脳以外に2つの臓器にてATP動態が変化していることを発見した。これらの臓器ではATP量が亢進していたため、各臓器をメタボローム解析したところ、核酸代謝の異常が起こっていることを見出した。この代謝形態は老化の時にも観察される代謝変化であった。更に、ATP動態変化が起こっていた臓器の一つである筋肉系の組織では張力発揮の機能が有意差を持って低下し、老化様の機能異常が起こり始めていることも見出した。
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