研究課題/領域番号 |
19H03564
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀内 孝彦 九州大学, 大学病院, 教授 (90219212)
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研究分担者 |
宮原 寿明 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, 整形外科統括部長 (10209934)
木本 泰孝 九州大学, 大学病院, 助教 (40735487)
田平 知子 金城学院大学, 薬学部, 准教授 (50155230)
宮田 敏行 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 客員研究員 (90183970)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遺伝性血管性浮腫 / C1インヒビター / 遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
血管性浮腫(angioedema)は全身の様々な部位に突発性の浮腫をきたす病態である。血管性浮腫は遺伝子に先天的な異常がある遺伝性とそれ以外の非遺伝性に分かれるが、原因や病態などについてはさまざまである。 今年度の研究実績として、以下の二つが挙げられる。1.遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema; HAE)についての全国調査結果の解析が終了した、2.遺伝性血管性浮腫の原因遺伝子についての解析を次世代シークエンス(NGS)を用いて行った。 遺伝性血管性浮腫については、わが国のみならずアジアでの国単位での調査がなかった。今回の全国調査で、C1インヒビター(C1 inhibitor; C1-INH)の欠損を原因とする従来から知られていた遺伝性血管性浮腫(HAE-C1-INH)107例とC1-INHに異常のない新しいタイプの遺伝性血管性浮腫(HAEnCI)19例、詳細が明らかではないが遺伝性を認める未分類型14例が報告された。HAEnCIはKAE-C1-INHと比較して有意に女性に多く(65.4%vs58.8%;p=0.021)、下肢の浮腫は有意に少なかった(5.56%vs57.0%;p<0.001)。両群とも治療薬としてC1-INH製剤、イカチバント、トラネキサム酸が使われていたが、使用頻度に有意差はなかった。遺伝性血管性浮腫の実態が明らかになった。 遺伝子解析は、遺伝性血管性浮腫の原因遺伝子としてすでに判明している7遺伝子(C1-INH、凝固12因子、プラスミノーゲン、アンギオポエチン1、ミオフェリン、キニノゲン、HS3ST6)については解析が進んでいる。欧米の報告と比較すると、C1-INH遺伝子異常のパターンや種類は差がないが、HAEnCIにおける遺伝子異常には大きな違いがあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝性血管性浮腫の全国調査については順調に進んでいる。その結果は一般社団法人日本補体学会、一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会の学術集会、厚労省「原発性免疫不全症候群の診療ガイドライン改訂、診療提供体制・移行医療体制構築、データベースの確立に関する研究」(森尾友宏教授)班会議で報告することができた。 遺伝子解析においては、次世代シークエンス(NGS)の体制を確立し、遺伝性血管性浮腫の既知の遺伝子異常(7遺伝子:C1-INH、凝固12因子、プラスミノーゲン、アンギオポエチン1、ミオフェリン、キニノゲン、HS3ST6)の解析のみならず、未知の原因遺伝子についても網羅的に解析することが可能になった。 その一方で研究遂行の遅れも生じた。2020年1月からわが国でも広がった新型コロナウイルス感染症によって研究遂行のうえで計画通りに進まない部分も生じた。試薬の円滑な供給ができない時期もあったことに加えて、患者検体の確保、遺伝子解析結果の共有と討論、それをふまえた研究計画のアップデート、学会などでの発表などについては進めることが難しいこともあった。とくに患者の受診控えによって患者検体の確保が難しくなり、たとえ遺伝子異常が見つかったとしても、研究を進めるためには家族の遺伝子解析も行うことが必須であるが、家族の来院、採血などの依頼は困難を極めた。また研究分担者はそれぞれの分野でのエキスパートをお願いしているが、往来が制限されたため直接会って研究成果の検討、将来の研究計画についての相談を行うことができなかった。膨大な資料をWEB上でリアルタイムに共有することは不可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
3年計画の2年目が終了している。遺伝性血管性浮腫全国調査の集計は終わり、患者の疫学、病態、患者の臨床所見や治療法、予後などについて詳細なデータを明らかにした。またホールエキソームを対象にした次世代シークエンス(NGS)の体制はほぼ整った。この状況を踏まえて今後の研究を推進する。 まず患者検体をさらに多数集積して、アジアで最大の遺伝性血管性浮腫の遺伝子データベースを作成する。従来から知られてきたC1-INH異常を有するHAE-C1-INHは200家系、C1-INHに異常のない新しいタイプのHAEnCIは30家系を目標に患者採血、臨床情報の収集、遺伝子解析を行う。 計画の進捗には今後も新型コロナウイルス感染症の蔓延が影響すると考えられる。新型コロナウイルスに感染した場合に重症化しやすのではないかというは不安は、特定難病である遺伝性血管性浮腫患者において特に強く、患者への対面の診療、採血、患者家族などへの接触などが困難になっている。新型コロナウイルス感染症が落ち着くまでは患者との連携は疎にならざるを得ない。また研究者間での討論の場も制限されている。これについては改善、対応の余地がある。新型コロナウイルス感染症の動向は不明であるが、感染の状況に合わせて研究者間の連携を機動的に進めていく予定である。とくに研究者同士の討論や情報交換は、WEB環境を整えることによって推進する予定である。しかしながら対面での意見交換は機微な情報の交換に重要であり、できる限り対面の検討の場を設定できるように努める。
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